片手に小さなバスケットを抱えた真雪が、ドアをノックし戸口に立つ。
「榊さん、お茶が入りました……あれ?ライカくんと和泉くんは」
「真雪ありがとうございます。和泉達は部屋に戻りましたから、呼んできてください」
テーブルにバスケットを置くと、真雪は榊の言葉に頷き部屋を後にした。
続いて部屋に入って来た凛もテーブルにトレイを置き、ソーサーとカップを並べ小気味良い音を立てながら紅茶を注ぐ。
机に座る榊に紅茶をやり慎哉の目の前にも紅茶を置くと、ソファーに座って一息つき、凛は紅茶を口にする。
「なぁ、凛も子猫ちゃんの過去聞いたのか?」
「榊から聞いたのか?」
静かな動作でカップに口をつける凛は目線だけを慎哉に配り、紅茶を飲んだ。
「私情に走って、己の身を滅ぼすようなことにはなるなよ」
「わかっている」
不意にノックも無しに開いたドアから和泉が顔を出す。
「俺にもお茶くれよ」
和泉は一人掛けのソファーに腰を下ろし、凛の入れる紅茶を待つ。
続いて入ってきたライカと真雪も視界に入り、凛は二人の分も紅茶を注いでそれぞれに場所に置いた。
「榊、今子猫ちゃんに聞いてみたら?」
「なぜ今ここでその話を出すんですか」
「皆居るし、いい機会だろ?いつまでも先延ばしに出来ないじゃん」
何の話かわからない真雪は、様子を窺いながら腰を下ろしカップに手を伸ばした。
もちろん榊、慎哉以外の面々もわからない話だったので、ライカ達は黙って話を聞いていた。
「子猫ちゃんはこいつ等が仕事に行く時どうする?――子猫ちゃんの両親を殺した奴等、殺りに行く時」
「……え」
凛、和泉、ライカは目を見開いて慎哉を睨み、真雪は唐突な事でどう答えて良いかわからないでいた。
伸ばしていた手を下げ、俯き手を膝の上で行き場を持て余すように落ち着きをなくしてしまう。
「榊は子猫ちゃんに留守番させようと思ってたみたいなんだけど、大人しく留守番する?」
「九条!てめぇには関係ねー話だろ、余計な口出しすんな!」
和泉は声を荒げテーブルに拳をぶつけるが、そんな脅しにも怯まない慎哉は言葉を続ける。
「俺が言わなきゃ誰が言うんだ?結局誰もその事言わないでおくつもりだったんだろう?後でバレて、コッソリ子猫ちゃんがついて来たらどうするよ」
「私は……」
「僕は……真雪ちゃんがどうしても行きたいって言うなら、連れて行っても良いんじゃないかって思う」
自分の事で怒る和泉を止めるべく真雪は声を出そうとするが、ライカの一言でその言葉を飲み込んだ。