夕食を終えた私は自室に戻り、一日を振り返りながらゆっくりと湯舟に浸かった。
凛さんはママみたいではあったけど、泣きながら抱きしめられた時の感触なんてやっぱり男の人なんだよなー……。
厚い胸板は服の上からでもはっきりとわかるくらい引き締まっていて、背中に回された腕は力強くて。
ほのかに感じた男性特有の香り、雄々しさを持ち合わせたどこか甘えたくなるような香り。
そんな人に私は抱き締められて……。
赤くなっているであろう顔を徐々に湯船に浸け、鼻の下すれすれの場所で浴槽の水面を見つめた。
しかし恥かしくなる気持ちとは裏腹に、私の脳裏に過ぎる思い。
もしかして私、凛さんにとんでもなく失礼な事言ったんじゃないだろうか。
私よりも年上で、しかも大人の男の人に対してママとか……。
熱いはずの身体と反比例するように、顔ばかりが血の気が失せていくのが自分でもわかった。
あの男らしい凛さんにママみたいだなんて、私の失言癖もどうにかしないと。
ごめんね凛さん。明日謝ろう、早いほうが良いよね?
それにライカくんの家が、事情のあるような家庭だったとは。
いつもニコニコしてて、そんな寂しさとか微塵も出していないのに。
……ライカくんに言われたあの言葉。
“僕ね本当に真雪ちゃんが好きだよ”
あれはどう考えても、ライカくんの気持ちなんだと思う。
真剣な面持ちでライカくんのグレーの瞳は真っ直ぐ私を見ていた。
そんなライカくんの気持ちに、私はどう応えれば良いんだろう。
今は自分の事で精一杯で、そんな気持ちになんてとてもじゃないけどなれないと思う。
嬉しいけど、ライカくんの言葉に甘えて“ライカくんの気持ちを知った”……と言うだけにしておこう。
どう応えるにしろ、一緒に住んでいる以上これ以上問題事を持ち込むわけにはいかない。
榊さんの好意で住まわせてもらってるのに、迷惑はかけられないし……。
でも色々見たり、話をしてみてわかる事ってあるんだなって、実感できた一日だったかも。
今まで気付きもしない一面を見れて、少しずつでも良いから皆に近づいてみたい。
けど知れば知るほど少し怖い。
皆はあの人達とは違う本当に優しい人達だ。
そう、あの人達と一緒にしちゃいけない。
血の繋がりなんて、信用しちゃいけない。
それだけは、身を持って知りえた事なんだから――。