「真雪ちゃんの作ったシチュー美味しい〜」
「別に凛さんの言われた通りにやっただけですし。でも嬉しい。美味しいって言ってくれて、大勢で一緒にご飯が食べられるって良いですよね」
真雪は少し寂しそうに微笑み、食事を口にする。
温かな食事を口に含んだ時、両親が生きていたときの少し前までの食事風景が脳裏をよぎった。
出来るだけ食事を一緒にと、早めの帰宅を心がけていた父は親子三人での食事をとても楽しみにしていた。
母と自分とで作った食事を、いつも
美味しいと言いながら食べ、そんな父を見て母は微笑む。
それが真雪の中の、いつもの風景。
いつまでも続くと思っていた風景。
それがこんな簡単に終わりがくると思っていなかった真雪は、心にポッカリと空洞が出来たようにスプーンを持ったまま呆けてしまった。
「――ちゃん!真雪ちゃん!」
「……え?何?ライカくん」
「急に黙り込んじゃって、どうしたの?」
「あ……うん、ごめんなさい。何でもないです」
真雪とライカのやり取りを静かに見ながら、榊と凛は食事を食べ終え食後のコーヒーを飲み始めた。
ひたすら無言で一人おかわりをし、食事にがっつく和泉は口一杯に頬張ってモグモグと咀嚼を繰り返す。
満腹感に達したのか胸の前で両手を合わせ“ご馳走様”と呟きコーヒーに手を伸ばす。
「凛が料理好きで助かるよな。それに真雪が料理するって意外だったし」
少々重かった空気が和泉の一言で軽くなったが、言われた真雪はむくれ気味だ。
「どういう意味ですか?私が何も出来ないような言い方ですよね」
「だって真雪は、良いトコのお嬢じゃん」
皆黙って傍観するが、和泉の意見に納得していた。
凛を除いて。
「躾が良かったから、真雪は料理とか出来るそうだ」
「ふーん。で、なんで凛がそんな事知ってんだ?」
和泉は面白くなさそうにチラリと凛に目をやる。
「今日ちょっと聞いたんだ」
「真雪は凛に自分の話するのに、俺には話してくれないわけ?」
いつもならライカが一番先に言いそうな事を、和泉が聞いてくる。
そんなライカは、今日の真雪とのやり取りがとても嬉しくて、そんな些細な事に囚われる様子が無い。
そして真雪は今まで蚊帳の外に置かれていた自分に話を振られ慌てたが、一呼吸置き心を落ち着かせた。
「それは話の流れで言っただけで、別に隠してたとか凛さんだから言ったとかってわけじゃないですよ?」
「ふーん、まぁいいや。なんにせよ、飯美味かった。凛の飯も美味いけど、やっぱ女が作ったってだけで気分が違う」
「今まで男の手料理で悪かったな」
低音を響かせる凛にたじろぐ和泉は軽く咳払いをし、弁明を始めた。
「そんな事言ってねーじゃんか!凛の料理は俺にしたらお袋の味なんだからよ。真雪は……彼女に作ってもらったって感覚?」
流石のライカも“彼女”呼ばわりするのが気に入らなかったらしく、ニヤケ顔の和泉の頭に手刀を入れた。
「いってーっ!何スンだよライカ!」
そんなこんなで、笑いの耐えない夜はゆっくりと更けていった。