夕食の時間が近づき、何か手伝えればとキッチンに向かう真雪。
「凛さん、何か手伝いましょうか?」
窓から夕日が差し込む頃、凛は夕食準備に取り掛かっていた。
男所帯、さらに食べ盛りの男が二人。
食べる量も多く、いつもテーブル一杯の料理を作る凛に何か出来ればと思い、話しかけた。
「真雪のエプロン用意した。それを着けて何か作ってみるか?」
「ありがとうございます!はい、今日のメニューは何ですか?」
凛から白いエプロンを貰い、身に着ける。
肩フリルがたっぷりとあり、裾も大きくヒラヒラしたフリルがついている。
後ろは大きなリボン結びが出来る、随分可愛らしいデザインのものだ。
「凛さん、これは誰が用意してくれたんですか?」
「俺だが、気に入らなかったか?」
「乙女チックなのが好きなんですね?とても可愛らしくて、どうです似合いますか?」
真雪は楽しそうに笑いながらその場で回って、凛に見てもらう。
「乙女チック……。いや、女ならこういったのが好きかと思ってだな、別に俺の趣味とかじゃ」
「似合いますか?」
「あぁ、似合ってる。ほら、腹を空かせた奴等が来る前に作るぞ」
凛の言葉に喜びを隠せない様子の真雪をいつまでも見ていたいと思ったが、時間も時間なので急いで仕度に取り掛かった。
「今日はハンバーグ、付け合せにポテト、アスパラとトマトのグリルにサラダ、クリームシチューの予定だ。真雪には作ってもらおうか」
「はい、じゃあ野菜の下準備しますね」
それから二人で夕食の準備をし始め、辺りには良い香りが立ち込めてきた。
匂いに釣られてやってきたのは和泉。
「っかー!腹減った!今日はハンバーグだな、凛まだ……って!真雪それ」
「和泉くんどうしたんです?夕食もうちょっと待ってくださいね」
「いやいや、そうじゃなくてよ。その格好」
和泉は驚いた表情で指をさし、僅かに赤らめる頬をそのままに真雪を凝視する。
見つめられている真雪はエプロンの裾を持ち、風にそよぐようにヒラリとなびかせた。
「凛さんに用意してもらったんです、似合いますか?」
「ん、あぁ、良いんじゃね?つーか、凛がねぇ」
ニヤニヤしながら凛の様子を伺うも、黙々と料理をしていて和泉を見ようともしない。
ただ和泉が話しかけた事で凛の態度が明らかに変わってしまい、言葉を発しなくなっている。
和泉が来るまでの間に言葉少なくとも、会話を楽しみながらの料理をしていた真雪にとってはそれが一目瞭然だった。
なにやら少々不穏な空気にハラハラする真雪は、そそくさと凛に言われたシチューの仕上げをし始めた。
程なく出来上がった料理を盛り付けていると、皆が揃ってテーブルにつき夕食の時間が始まった。