二人っきりになるようなことはしたくない。
しかし、話をしてくれると言ってる。
頭の中で必死に考えを巡らせ、真雪は言葉を出せないでいた。
「別に聞きたくないなら、俺は帰るけど」
席を立とうとする尊に真雪は慌てて声をかける。
「待ってください!」
「部屋に行く?」
思わず引き止めてしまった真雪は眉根を寄せ、向けられた尊の視線を逸らした。
「何もしないって……誓ってくれるなら、本当に話してくれるって誓ってくれるなら」
「……あぁ、良いよ。誓う」
真雪達は席を立ち、尊がフロントで部屋を取るのを後方から眺めた。
「真雪、行くよ」
尊に声をかけられ、ここにきて真雪の心に戸惑いが沸き起こる。
信じて良いのかわからない人物と共に、密室に自ら飛び込むのは危険だと今更ながら恐怖に苛む。
しかし目の前には真相を知る人がいて、チャンスを逃すまいと真雪は勇気を振り絞り前に進んだ。
背を向けた尊が薄ら笑いを浮かべている事に、気付きもしないで。
部屋に入るなり、尊はベッドに腰をかけ真雪を見る。
「そんな所に突っ立ってないでこっちにおいでよ。何もしないから」
「いえ、ここで結構です」
真雪は戸口に立って、極力尊の側に行かないように警戒していた。
「全く、信用ないな。……じゃあ、どこから話そうか」
「全部……話て下さい」
強気の姿勢を崩さない真雪は尊を睨みつけるが、痛くも痒くもないといった面持ちで見据える。
「立っていられたら落ちついて話なんて出来ないよ。さぁ、こちらに来るんだ」
根比べとばかりに、それから一言も話をしなくなった尊に負け、奥にある椅子に歩みを寄せ腰をかける。
その様子を満足そうに眺める尊は、ゆっくりと口を開いた。
「俺が柳川建設と繋がってたのは認めるよ、後は知らない。これが事実」
「……それが全部ですか?」
「ね、真雪。帰っておいで、乱暴した事は謝るから。俺はそれだけ真雪を想っていたんだ、俺の気持ちもわかってよ」
「そんな話を聞きに来たんじゃありません!はぐらかさないで下さい!」
真雪の大きな声で一瞬にして静まり返る室内に、携帯の無機質な音が鳴る。
ふと自分のもってきたバッグから聞こえてくるのに気付き、真雪は咄嗟に携帯を取り出した。
ディスプレイを見ると榊の名前が表示されてある。
誰にも告げず屋敷を出てきた事で榊達が心配しているのだとすぐに悟り、真雪は部屋から出ようと立ち上がった。
「ちょっとすいません」
尊に一言断りをいれ、廊下に出ようとドアノブに手をかけたその時。
真雪の後ろから尊の腕が伸び、握っていた携帯を奪われた。