「どこ行ってたの?探したんだけどな」
尊はコーヒーを注文し、真雪の対面にある椅子に腰を下ろした。
「私……尊さんに聞きたい事があって」
「何?俺にわかることなら、教えてあげる」
どこか余裕を見せる尊は長い足を組み、柔らかな背もたれに重心を置く。
「両親の自殺の事なんですけど、……本当は自殺じゃなかったんでしょう?」
「それをなぜ俺に聞くんだ?警察は自殺として処理してたじゃないか」
「ある人から聞きました。両親は自殺じゃない、殺された……と」
尊は取り乱す事無く、淡々と真雪の話を聞き、運ばれたコーヒーを口に運ぶ。
「その人が適当な事言ってるんじゃないの?それに俺はそんなの知らない」
「では、柳川建設はご存知ですよね。尊さんが密かに繋がっていたという、御堂建設のライバル社」
「柳川建設は知ってるけど、なぜライバル社と繋がりを持たなくちゃならないんだ?知らないね」
「じゃあ木嶋組は」
尊は微かに眉を吊り上げ、畳み掛けてくる真雪に刺すような視線を向けた。
「いい加減にしないか、俺の知らないことばかりで真雪に何も教えられない。一体誰がそんな話を真雪に吹き込んだんだ?俺に教えてみなよ」
「誰でも良いじゃないですか!その人の言ってる事は、本当なんじゃないんですか!?」
「真雪は騙されているんだよ、そいつに。かわいそうに。さぁ家に帰ってゆっくり休もう」
「嫌です!……私は帰りません。騙されてもいません!皆さん私に良くしてくれます。知りもしないであの人達を侮辱しないで!」
声を荒げる事など滅多になかった真雪が感情を露にする。
驚いた尊は、含むような笑みを浮かべ手を口元へ運んだ。
「“あの人達”……ねぇ。何?そいつらにかくまって貰ってるの?男……なわけないか、男嫌いだもんね」
「尊さんに関係ない!私は男性が嫌いなんじゃありません。尊さんが嫌いなだけです!」
「へぇ……俺ってそんなに嫌われてたんだ」
それまで薄ら笑いを浮かべていた尊の瞳が、怒気を含み始める。
それを見た真雪は、勢い余ってつい言ってしまった本音を後悔する。
「た……尊さんが話をしてくれないなら、それでいいです。わざわざ来てくださって、ありがとうございました」
早々に立ち去ろうとしたその時。
「良いよ、俺の知ってること教えてあげる」
「え……?」
「ただし、ここじゃ言えない。部屋に行こう。大事な話をするのにこんな人の多い所じゃ……ね」
そう言って指を天井に向け、ホテルの部屋を指した。