ライカと和泉の発言で驚いた真雪が、足に紅茶を零した。
俺の身体が勝手に動き真雪を抱きかかえ、シンクに連れていき水で冷やしていた。
「大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です、ありがとうございます。凛さん服が濡れちゃってますし、シンク周りもビチャビチャになってますけど」
「気にするな、これくらい構わない」
そんな事よりも、自分の身体の心配してろと言いたい。
一応女なんだ、痕が残ったら大変だろう。
気付かれないようにため息を漏らせば、真雪の息遣いがすぐ側で聞こえてくるのに気がついた。
よほど慌てていたのか、今更ながらに気付く。
細い身体を密着させ、抱き締めるような格好に。
長い睫毛が目の前でゆっくりと瞬き、何か言いたげな唇は薄く開いている。
そんな赤い顔の真雪に、目が奪われた。
「紅茶零しちゃってごめんなさい、凛さんもう大丈夫ですから下ろしてもらえますか?」
「着替えた後に手当てしてやる。後で部屋に来るんだ」
仕方なく真雪を下ろしてやれば、名残惜しそうに長い髪が俺から離れて行く。
柔らかな感触の残る、この腕が甘く痺れる。
そして濡れた服を着替えるため、一旦部屋を出て行った。
着替えを終えた真雪は、火傷は大したことないと手当てを断っているが、納得のいかない俺は無理やりソファに座らせ火傷の具合を診る。
スカートが少しずつめくられ、華奢な足から桃色づいた患部に近づいた時、煩かったライカが途端に静かになった。
二人を横目で見れば、目を輝かせ真雪の足に視線が集中していて、それに気付いた真雪は恥ずかしさからなのか涙目になっている。
「余計な輩は出て行ってもらおうか」
これが一番良い方法だろう。
喚く二人をつまみ出し鍵もかけた、もう邪魔は入らない。
「今は俺しかいないから安心しろ、足を出せ」
「や、それでも恥ずかしいんですけど」
それでも恥ずかしがり、裾を握り締める真雪は俯いたまま声を絞り出していた。
「ガキに興味ないから恥ずかしがらなくて良い」
これで素直に手当てさせてくれるだろう。
俺を男みてくれなくても良い。
今は……これで良い。
今は……。
和泉と真雪が部屋から出て行き、なぜかライカ一人が残っていた。
「何か用か?」
「凛にちょっとお話〜」
「なんだ」
「今日の凛は随分カッコいいなーって思ってさ。いつも冷静沈着でクールなのに、真雪ちゃんが紅茶零したとき、なんであんなに動くのさ。凛も真雪ちゃん欲しいの?」
「別に、いつもの俺だったと思うが?それに真雪は榊が連れて来た大事な客だろう。それ以上でもそれ以下でもない」
とってつけたような言い訳染みた言葉を信用するほど、ライカは馬鹿じゃないが。
こいつは嗅覚が良すぎる、敵か味方かを瞬時に嗅ぎ分ける。
俺の気付かないでいた気持ちを一番最初に気付かせたのは、さっき言われたライカの一言だったなと思わず自嘲してしまう。
この俺が一人の女を気にかけるなんて。
久しぶりの高揚感に戸惑いを覚えた、そんな一日。