両親が殺された真相を知りたい、犯人を見つけたい。
この事だけが真雪の生きる糧となり、自らした封印から気持ちが溢れるように涙が止まらなくなってしまった。
真雪は食事どころではなくなってしまい、ダイニングから退席しようとすると和泉が付き添ってリビングを後にした。
部屋に着くまで二人は無言でいて、ただ真雪の声を押し殺し泣く様子が和泉の背中にひしひしと伝わっていた。
和泉は時折後ろを振り返り真雪を見ては、忍びない気持ちで見ていた。
部屋まで来ると、和泉が口を開いた。
「んー、まぁあんまり無理すんな」
「無理なんか……してません」
「かわいくねー」
部屋に着くなり、和泉は眉間にシワを寄せながらソファーに深く座った。
「私は……無理をしてるように見えましたか?」
「まぁな、最初の頃の真雪はまるで感情のねぇ人形だったな」
見透かされていると思った真雪はドアの前で立ち止まり、和泉の視線から顔を逸らした。
「理由はよくわかんねーけど、榊が真雪をこの家に居ること許してるんだ。だから変に意地張らねぇで、俺等に頼っていいんだぜ?」
「和泉くんて言葉遣い悪いですけど、意外に人の事見てるし……優しいんですね」
「ちょっと待て!お前は俺様の事、どんな奴だと」
和泉から顔を逸らしたまま独り言を漏らすと、後ろから開きっぱなしのドアをノックする音が聞こえた。
「まだ少ししか一緒にいないのに、和泉の事よくわかるね〜」
そこにはライカが腕組しながら頷いていて、真雪の言葉に同意していた。
「ライカくん、さっきは急に泣いちゃってごめんなさい。せっかくの夕食、台無しにしちゃって」
「仕方ないよ、やっと身体が落ち着いたばかりで気持ちの整理なんて出来てないんでしょ?気にしない、気にしない。ね?」
ライカの言葉に真雪は小さく頷くと、満足そうに笑うライカが真雪の背中を押してソファに腰を下ろさせた。
「お前等、俺様を無視すんじゃねぇよ!」
「あ、ごめんなさい」
「まぁ口が悪いのは認める。人の事見てるってのは仕事柄だな、クセみたいなもんだし。……優しいのは性格が良いからだろ?それが何で、意外と言われなきゃならね」
「変態は放っておいてさ真雪ちゃん」
「おい!」
二人のやり取りを眺めていた真雪は思わず吹き出してしまい、口元を押さえて笑っていた。
それに驚いた二人は言い争うのを止め、真雪に視線を集めた。
突然見つめられた真雪も驚いた様子で、笑顔が張り付いてしまう。
「んーやっぱり、笑顔が一番だよー。可愛い!」
朗らかに笑うライカに抱きつかれた真雪は、急なスキンシップに戸惑いオロオロとしていた。
「まぁ、良いんじゃねーの?」
ぶっきらぼうに言い放つ和泉は、優しい瞳を向けながら真雪の肩を叩くと抱きついてたライカを引き剥がした。
「……なんだか心が軽くなってきてるのが、自分でもわかるんです。知り合って間もないのに“信用できそう”とか“人との触れ合いが暖かい”とか思えるようになってるって……生きることに諦めなくて良かった。今、素直にそう思えるんです」
真雪は俯きながら、自分の気持ちを打ち明けた。
「真雪ちゃん……あーもう駄目!すっごく可愛い!」
「ばっ、ライカ抱きつくな!」
「何でー?」
真雪に抱きついたライカを和泉が再度引き剥がすと、口を尖らせ不満を漏らす。
「……ともかく駄目だ」
顔が赤いよと、ライカは和泉の頬を突っつき、それに怒った和泉はライカを追いかけまわし始めた。
二人がじゃれ合ってる子犬のように見える真雪は、笑みを零した。
いつまでたっても終わりそうのないじゃれ合いに、気分が落ち着いた真雪は一人家の探索をしてみようと部屋から抜け出した。