「凛はこう見えても、料理すっごく上手なんだよー」
ライカから早く食べようと促され、真雪もナイフとフォークを手にする。
「こう見えてもって、どう言う意味だ」
静かに食べながらライカを横目で見ている凛は眉をしかめ、不本意な表情でいる。
そんな様子を見て緊張しながらも、真雪も食事を口に運んだ。
「……おいし、竜崎さん、とても美味しいです」
「竜崎なんて聞きなれなくて、誰だかわからないから凛でいいよー」
「そうそう、凛でいい。俺様が許す」
なんとも気楽に好きな事を言うライカ達に困惑しながら凛を盗み見ると、静かに食事をする凛が口を開いた。
「……好きに呼べば良い」
「じゃあ……凛さんと呼ばせてもらって良いですか?」
「構わない」
愛想のない声で凛からの了解が出ると、真雪は僅かに安堵する。
「これで住人は全員です、仲良くしてやってくださいね。わからないことがあれば誰かに聞いてください、あと……当分はこの家から出ないでください。この家の中だったらどこに居ても良いので、そこそこの広さがあるので探検がてら家の間取りなんか覚えても良いかもしれませんね」
目を細めながら真雪に言葉をかけた榊は、上手にナイフとフォークを使い綺麗に食事を口元へと運ぶ。
「はーい、僕が案内するー!」
ナイフを持ち上げ挙手をするライカは、真雪を窺うように顔を覗き込む。
「あの……お願いします」
そう言って真雪はライカに頭を下げ、ここの人達は何故こんなに優しいのだろうかと、思わず顔が緩んだ。
「初めて笑った!」
「……え?」
「笑ったら可愛いだろうなぁって思ってたけど、やっぱり笑ってた方が良いね真雪ちゃん」
「……私、今まで笑ってませんでしたか?」
「感情の出し方を忘れてしまった……のでしょうか」
その一言に、真雪は身体を揺らし榊に動揺の視線を向けた。
感情を忘れたわけじゃなく、ただこの世に未練がないと思っていた真雪は心の動きを封印していた。
そうでもなければ、叔父の家での生活で自分自身が壊れてしまいそうだったから。
笑うことも、泣くことも、怒ることも全て。
そんな事を思っていた真雪の瞳から、涙が一滴(ひとしずく)流れ落ちていた。