翌日。
「凜さん、おかえりなさい」
「あぁ。悪かったな、食事の準備任せっ放しで。和泉の事も」
「そんな事ないです。和泉くん元気になったみたいですし、良かったです」
笑う真雪はどこか力無く、凜は眉を僅かにしかませてまじまじと見つめた。
「真雪、顔が赤いぞ。どうした」
「顔が赤いですか?……うーん、凛さんが歪んで見え……る、様な……」
カクンと膝が折れ、地に着きそうになった時。
「真雪!」
咄嗟に伸ばされた腕に抱えられた。
凜が何か言ってるのはわかっていたが、真雪の意識は途切れてしまった。
次に真雪が目を覚ました時は、見慣れた天井が広がっていた。
「起きたか、具合はどうだ?」
「あ……れ?凜さん……」
「和泉の看病してて、うつったか」
和泉に抱き締められながら眠っていた事を思い出し、あの時にでもうつったのかと少し恥かしくなる。
「ともかく寝てろ、後で薬持って来るから」
「……はい」
凜の大きな掌を額に感じ、真雪はまた眠りについた。
静かな部屋に和泉は足を忍ばせる。
ベッドには少し赤い顔で眠る真雪が、静かに寝息をたてている。
「やっぱり、キスしたからうつったのか?悪ぃな……真雪」
「そんな事をやれば、うつって当たり前だ」
誰も居なかった部屋、戸口には気配もなく凜が立っていた。
驚いた和泉は振り向く事が出来ず、殺気に似た何かが背中に感じた。
「あは、はは……」
力なく笑う和泉は、真雪の頭をソッと撫でて小さく息を吐き出した。
「悪い……」
だってな、あの時は無性に真雪が欲しかったから。
こんな時なら、独り占めしても良いかなって思ったんだ。
和泉の独白は、誰にも聞かれることのなよう、心の中で呟かれていた。