三十分後、真雪はおじやをトレイに乗せて再び和泉の部屋に入る。
寝てるかもしれないと思い、小さくノックをしてからゆっくりとドアを開けた。
静かな寝息をたてる音が聞こえ、トレイをテーブルに置いてからベッドに近寄る。
顔の半分を布団で隠し、眠る和泉がいて。
前髪の隙間から見える冷却シートが何とも不釣り合いで、不謹慎ながらも真雪は思わず微笑んだ。
真雪の気配に気付いた和泉は、目を薄く開いてぼんやりとしている。
「俺……寝てた?」
「ごめんなさい、起こしちゃいましたね」
「別に……、俺眠り浅いし。気配感じたら勝手に目が覚める」
ウーンと唸りながら大きく伸びをし、和泉は身体を起した。
「何か、良い匂いする」
「あ、おじや作りました。食べます?」
「……食う」
ゴシゴシと目を擦り、和泉はソファーへと足を運んだ。
テーブルには小さな土鍋が置いてあり、細い湯気が立ち上ぼる。
真雪が蓋を取ると、ふわりと湯気が一斉に飛び出し、味噌の香ばしい匂いが辺りに充満する。
「あ、肉団子!」
「お肉食べたいって言ってたんで、鶏肉のつくねも作りました。おじや、味噌味なんですけど、平気ですか?」
「ヘーキ、ヘーキ。真雪俺腹減った、早く食わせて」
急かされる真雪は、慌てて茶碗へおじやをよそい、つくねを二つ乗せた。
いまかいまかと待ち切れない様子の和泉に、茶碗を手渡す。
「熱いから、気をつけてくださいね」
「わかってるって、いただきー」
レンゲで一匙掬い、フゥフゥと冷まし口へ運ぶ。
「ぅ、うめぇ。何か身体に染みわたるー。……肉もうめぇー」
美味い美味いと連呼する和泉は、ペロリとおじやをたいらげてしまった。
「ごち。真雪サンキュ、すんげぇ美味かった」
「良かったです。じゃあお薬飲んで、また寝てくださいね」
和泉の前に水と薬を差し出し、食べた食器をトレイへと戻す。
素直に渡された薬を口に含み、水を一飲みした。
「よっしゃ、薬も飲んだ!」
「和泉くん、何でお医者さんに行かないんですか?」
「……面倒だから。病院行くと、待ってる間にもっと具合悪くなりそうだろ?」
しかめた顔をする和泉は立ち上がり、ベッドに身体を投げる。
「俺はここで寝てた方が良いし、その方が早く良くなる」
「けど、眠りが浅いんですよね。身体の疲れとれますか?」
真雪はトレイを持ち、片付けようとキッチンに行こうとすると。
「……取れない。真雪、ちょっと来て」
「片付けてくるんで、少し待っててください」
「良いから、今。……来て」
いつもの和泉らしくない物静かな言い方に、病は人の気を弱くさせるものだと思い、トレイをテーブルに置き和泉に近付いた。