「そろそろお昼ご飯ですし、何か食べてからの方が良いですね。食欲、ありますか?」
「肉食いたい」
真雪は一瞬キョトンとした顔をして、すぐさま困った表情をし始めた。
「食欲あるのは良いですけど、消化の良い物をリクエストしてくださいよ。おじやでも作って来ますね。……っとその前に、体温計そろそろですよね」
真雪はベッドの端に腰を下ろし、体温計の電子音を待つ。
静かな室内に小さく計測終了の音が鳴った。
「じゃあ見せてください」
「やだ」
真雪から出された手を無視し、和泉は布団を深く被った。
一瞬呆気に取られた真雪はベッドから降り、和泉の頭元へと移動した。
「うわぁ!真雪、俺、病人だって」
「だったら素直に言う事聞いてください!体温計、出してください!」
再度布団を剥ぎ取り、和泉は渋々体温計を取り出そうとするが、思い立ったように真雪から布団を奪い取って包まった。
「ちょっと和泉くん!」
力任せに布団を剥ごうとする真雪だが、力で敵う訳もなく。
布団から顔を出し、和泉は不敵な笑みを浮かべた。
「じゃあ、さっきみたいに無理矢理取れよ」
「ど、どうしてですか!?そんなに私を困らせたいんですか?」
「そう」
相変わらず笑ったままの和泉の顔は、熱のせいか少し汗を掻き赤みを帯びた顔をしている。
弱りながらも、無駄に垂れ流された色気に誘惑されそうで。
いくら色恋に鈍い真雪でも、クラクラしそうになる。
しかし、そんな事ではいけないと、自分を奮い立たせた。
試すような視線を向けたままの和泉に業を煮やした真雪は、布団を掴む手に力を込めた。
「……和泉くんがその気なら、私にも考えがあります」
「はぁ?考え?」
そう言って真雪は、和泉の言葉を最後まで聞く事無く、サッと部屋から出て行った。