「榊ー、凜がキッチンに居ねぇんだけど。あれ……九条また来てんの?てか何か弱ってねぇ?」
和泉が榊の部屋に入ると、慎哉がソファーで魂が抜けたように寝そべっている。
「凜に子猫ちゃん取られて、元気なくなったー」
「別に九条のでもないし、今日は用事もないのですから仕事でもしに戻ったらどうなんです?」
「子猫ちゃんにパワー貰おうと思って来たのに、帰られないねぇ」
「榊〜、凜も真雪ちゃんも居ないー。僕お腹空いた〜」
眉をハの字にさせたライカが部屋のドアを開け、ふらりと入って来た。
「凜と真雪は外で食べて来るそうです。真雪が来てから、凜は休みなく食事の仕度をしてくれてたんです。たまには休ませてあげましょう」
「だからって置いてかなくてもなー。俺も子猫ちゃんとランチしたかった」
「僕も行きたかった〜。凜何で誘ってくれないんだよー」
榊は悪態を吐く面々に苦笑いを浮かべ、窓の外を眺めた。
「凜は凜なりに何か考えがあるんじゃないですか?」
「考えじゃなくて、独り占めだろ?」
慎哉は相変わらずソファーの上で、ゴロゴロと転がって、口を尖らせ不満を零す。
「凜ばっかり狡いよ〜」
「俺の腹限界〜、榊飯食べに行こうぜ」
榊はハイハイと言いながら不満を漏らす男達を束ね、ガレージへと向かい、皆で車に乗り込んだ。
「久しぶりにいつもの店に行ってみますか?」
「行く行く!あそこの牛頬肉の柔らか赤ワイン煮食べたい!」
「俺もそれ食べてぇ!あ〜腹減ったー」
空腹を訴えるライカと和泉は、目的地に早く着けと車を走らせる榊を急かす。
一方、助手席にいる慎哉はと言うと。
「子猫ちゃんハグしたいー」
不用意な一言で、店に着くまで慎哉は皆に責められていた。
目的地に着き、店内に入れば。
「あ、皆さんも来たんですね」
「子猫ちゃ〜ん!……ッグェ。」
真雪に飛び付こうとした慎哉を、側にいた榊が襟首を掴みそれを阻止する。
「店の中で騒がないでください」
「ちょっとー!凜、何で僕達置いてったの〜!?」
「おい、腹減った!それちょっと食わせろよー」
二人きりで静かに食事を楽しんでいたところが、急に騒がしくなり。
いつもの店になんて来るんじゃなかったと、心で呟く凛が後悔したのは言うまでもない。