その途中。
「凛と子猫ちゃんはどこに行くの?」
今度はコイツか。
「何の用だ」
「そんなつれない事言うなよ。ツンデレなんだから〜。いや、凛の場合ツンツンか?」
ケラケラと笑う九条。
いつもの能天気っぷりに、頭痛がする。
「慎哉くん、こんにちは。これから凛さんとお昼ご飯食べに行くんです」
微笑む真雪はさっきと違い、だいぶ晴れやかになっていた。
「だから、お前が来ても飯はない。だから帰れ。それか早く榊の所へ行って、用事でも片付けて来い」
「子猫ちゃんは良い娘だね〜、ちゃんと挨拶してくれる。誰かさんと違って」
ボソリと小声で喋る九条の言葉を素通りし、俺はガレージへ真雪と共に歩みを進めた。
「良いんですか?慎哉くん放っておいて」
見上げる真雪の視線は俺に向けられていて、あまりにも真っ直ぐな瞳に俺は思わず視線を逸らしてしまう。
和泉やライカと大して歳の変わらない、少女のようなあどけなさが残る真雪に、俺は赤面してしまう。
いい年して恥かしいだろ、俺。
女なんて面倒だと、疎遠にしていたしっぺ返しなんだろうか。
遊びの女ならともかく、俺を本気にさせるような女と巡り逢った事なんてない。
今更女にどう接して良いかわからないなんて、な。
思わず自嘲してしまう。
「凛さん?どうしたんですか、急に黙っちゃって」
俺を覗く真雪は、眉をひそめ怪訝そうな顔でいる。
お前の事を考えていたなんて、口が裂けても言えない。
どんな顔で俺はそんな事を言えるんだ?
まぁ、九条やライカは普通に言えるんだろうけどな。
時に能天気に軽口を叩ける、奴等が羨ましく感じる。
「何でもない。乗れ、行くぞ」
「はい、どこでお昼にしましょう」
「どこで……か。そうだな」
真雪が望むなら、好きな場所に連れて行ってやる。
俺が隣に居れるなら。
少しばかり真雪を独占できる時間、ゆっくりと堪能しよう。
今日の嫌な事が全て忘れるくらい。
――帰ったら、ウェッジウッド……発注しなければ。