一人で考えていると、大きな音を立てて開け放たれたリビングのドア。
探していたと言わんばかりに、和泉が俺に近寄る。
「凜悪い。カップ割っちまった」
――これは。
和泉から差し出された箱の中には、真っ二つに割られたカップが入っていた。
探していた、あのウェッジウッド。
「お前にこれは用事ないだろう、なぜこんな物を触った」
「腹減ってて、食い物探してたらこの箱があってさ。何かなーって思って箱を持とうとしたら……、ガチャーンって。悪い」
「はぁ、わかった。もう良い。高い物でもないし、腹減ったのなら、ライカがおやつを溜め込んでるから、それをもらって来い」
和泉は再度謝り、ライカの部屋へ向かっていった。
俺は割れたカップを箱に収め、ソーサーを取り出す。
ソーサーは少し欠けていたぐらいだが、しかしこれでは真雪に渡せない。
「また、買えば良いか。真雪には事情を説明して……」
パタパタとエントランスを駆ける軽い音が聞こえ、リビングのドアが再び開く。
「凛さん、お昼ご飯はどうしましょう?」
「あぁ、お昼。もうそんな時間か」
近付く真雪は、俺の持つソーサーに目を見張る。
「もしかして、今朝言っていたのってこれですか?凄く綺麗……ぁ」
真雪の視線が、箱の中の割れたカップに移る。
花が咲くような喜びの表情から一転して、しぼんだように肩を落とし言葉を詰まらせた。
「ちょっとあって、割れてしまったんだ。また用意する、もう少し待っててくれるか?」
「あ、あ、でも、別に無理に用意しなくても良いんです。皆さんと一緒のカップもありますし」
必死に手を振る真雪の顔は、明らかにガッカリしていて。
こんな顔をさせてしまった事に、俺の心が軋むように痛んだ。
「そんな遠慮はしなくていい、このカップはお前に似合うと思って買ったんだ。また同じ物を用意する」
「でもそんな……」
申し訳なさそうにする真雪に、少しでも気晴らしをさせてやりたくなる。
陰る表情から明るい笑顔に変えてやりたい。
「昼飯は外に食いに行くか」
「え、は、はい。じゃあ皆さんにも言ってきますね」
「言わなくて良い」
踵を返そうとする真雪の腕を掴み、俺は携帯を取り出し榊に電話をした。
「俺だ、今日の昼飯は各自で食べてくれ。……ちょっとな、……真雪と一緒に外で食ってくるから、後は頼んだ」
携帯を閉じ車のキーがポケットに入っているのを確認していると、真雪が俺の服を引っ張った。
「良いんですか?皆さんも一緒じゃなくて」
「俺と二人きりは嫌か」
「そんな事ありません。でも、急にどうして」
「別に何でもない。たまには良いだろ?」
どうして良いかわからないでいる真雪の背中を押し、俺はガレージへ行った。