空想庭園 3 もう何度寝だろう、寝ては起きての繰り返し。 しっかりとした睡眠をロクに取っていないせいか、いつまでも身体が休まらない。 待ってろと言われて素直に待っているけど、いつになったら来るんだろう。 時計を見ればもうお昼を過ぎている。 朝よりはよっぽど楽になったから、やっぱり一人で帰ろう。 電車であろうがタクシーであろうが、お金がないには変わりないから、やっぱりユベールに借りてこなきゃ……。 「確か……第三会議室って言ってたな」 第三会議室は10人以下対応の小さい会議室だ。 社長室と同じ階にあるから来客があればよく使われていた部屋で、会議室と言うよりちょっとした応接室だ。 社長室を出て第三会議室に行く。 完全防音の会議室は外からでは何が起こっているのか、何を話しているのかわからない。 重い扉を薄く開けようとするが、鍵がかけられているようで動こうとしない。 ダメか……、やっぱり大人しく待っているしか出来ないのか……。 早く家で休みたいのに、また来た道を戻り社長室に足を向けると。 「月胡か……」 今開けようとした扉が開き、ユベールが顔を出した。 お、ラッキー。これで帰れる。そう思ってユベールに近寄ろうとすると、あのムカつく女も一緒に顔を出した。 「あら、あの無礼者ね。まだ居たのね」 蔑むような目線をくれながら、ユベールに絡みついている。 内心イラっとしたけど、用件だけ済ませてサッサと帰ろう。 「帰るからお金貸して。財布も何も持ってきてない」 よくよく考えれば部屋着のままで家を飛び出してきたから、電車じゃさすがに恥ずかしいな……。 「送ると言っている。大人しく」 「私が来てあげているのに、他の者……しかも人間を気にするなんて。どうしたのよユベール」 こっちを見ろと言わんばかりに、ユベールの顔に手を滑らせて女の方に向けた。 「今、俺が話しているのは月胡です。ロベリア、あなたではない」 「……何……?私を拒絶するつもり?」 女から離れようと身体を離そうとするユベールに、なぜかその女は私を睨みつけてきた。 凄まじい怒り。 魔界で初めて会った時とは比べ物にならないくらいの、明らかな殺意。 本当、何なんだよ一体。私はただ帰りたいだけなんだって。 「はい、ストーップ。お終い」 緊迫する空気を破ったのは変態緑の呑気な声。 それに合わせて女が後ろに引っ張られた。 「アニスお兄様!離して!私はユベールに」 「たまにはお兄ちゃんの言う事聞いても良いんじゃない?いつまでも我儘ばっかりだと、誰にも相手にされなくなっちゃうよ?」 「……アニスお兄様まで私に説教するの?」 怒りの矛先が私から変態緑へと移った。 今の内とばかりに、ユベールに手を差し出した。 「お金。こんな格好だし、タクシーで帰るから」 「……お前は……、俺の話を聞いてなかったのか?」 あれ?社長室での怒り、再燃してる? 一人で帰れるんだし、ユベールの面倒が減って良いじゃん。 「……じゃあいい。歩いて帰る」 「待て!」 待てと言われて待つわけもなく。 私を追いかけようとするユベールは、あの女に捕まっていた。 少しでも足止めをしてくれるのであれば、今はあの女に感謝だ。 巻き込まれるのは嫌だから、この場をさっさと離れたかった。 私はエレベーターに乗り、閉まるボタンを押した。 「……逃げられると思うなよ」 閉まりそうになったエレベーターのドアを押さえ、静かに怒るユベールが乗り込んできた。 そしてすぐに閉まるボタンを押して、その箱は重力に従うように下に降りて行った。 [*前へ] [戻る] |