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空想庭園




私を抱き締めるアニス。
アニスの胸に顔を埋める私。

男女の情交を終えた私達は、アニスのベッドで横になっていた。

「乱れる香夜ちゃん、すっごく可愛かったよ」

そう言い、アニスは私の額に唇を落とした。
私は大人の大運動でクタクタになっていて、されるがまま。
恥ずかしい物言いに声を上げたいけど、そんな反応すら出来なくて顔色を青やら赤へと様々に変化させた。

「ぐったりしてる香夜ちゃんも可愛い」

強く抱き締め、アニスは私の髪に顔を埋めた。

どうしたのか。アニスが変だ。
今までこんな風に私に対して、こんな感情を見せた事も態度も見せた事もないのに。
突然の結婚命令からこっち、ずっとアニスは私に対してストレートに好意を見せている。

言動を見ている限り、確かに私の事を好きなのは疑わなくても良さそう。
不思議と大事にされている、愛されていると妙に実感してしまう事もあった。

でもどこか腑に落ちないのはなぜだろう。

疲れた頭に考え事をしていても、何も思い浮かんでこない。
こんな時は無理に考えないで、たっぷりの睡眠をとった後に考えれば良い。

そう思いながら、私の身体に巻きつく腕に若干の心地良さを覚えながら眠りについた。


じわりとした頬の痛みで目が覚める。
金色の目のアニスが私を見つめている。
薄く開けた目の端に映るのは、アニスが私の頬を摘まんでいる手。

「何……してるんですか」
「僕一人をおいて、勝手に寝ようとするからだよ」
「今は夜です。疲れてるんで寝かせてください。とりあえずコレ、痛いから止めてください」
「もう少しくらい起きてても良いんじゃない?……ね?」

どれくらい寝ていたのかはわからないけど、暗い部屋はまだ夜だとわかるほどで。
声は少し掠れていたけど、普通に声は出せる。

頬を強くゆっくりと横に引くアニスは脅しとも取れるやり方で、私の目を無理矢理覚醒させた。
痛くて目が覚めるなんて、とんでもなく疲れる目覚め。

「私、どれくらい寝てました?」
「十分くらい」

即答でかえって来た声。
たったそれしか眠れなかったのか……。ろくに疲れを取る事が出来ないと、重い息を吐く。

「僕が一人で起きているのに、十分も寝てれば十分だよね」

なんて勝手な言い分。
疲れた身体と頭では言い返すのがとても億劫。

もう、言わせておこう。面倒だもの。

「次はもう少しステップアップしてみようね。勿論、性的な意味でね」

放っておけない事態勃発です!
何をどう性的にステップアップするのでしょーか!?

言葉が出ない変わりに、落ち着かないその様子をアニスはそれはそれは楽しそうに微笑んで見ていた。

「早く僕と同じレベルに並ばないと困るからね」
「ま、待って……!」
「んー?」
「私……、まだ、指輪……貰ってないです」

アニスは指輪?と呟くように返事をすると、私の頬を引っ張る指の動きを止めた。
少し考え込むように、私の目をまじまじと見つめながらその手は離された。

僅かに与えられた隙に、私は大きく息をつく。

「結婚したのに、どうして指輪がないんですか」

焦って口に出したけど、少しの本心。
それなりに結婚に対して夢を見ていたから、指輪として形に残る何かは欲しかった。
……相手が相手で、アレだけど。

「結婚指輪と、婚約指輪……です」

探るように小出しで言えば、アニスは不機嫌を全面に出して目を逸らした。
私が口答えをしたのが面白くなかったんだと思う。

どうせ怒らせるなら、もう一つ気がかりだった事を。

「あと、結婚するまでの道のりがショートカットしすぎて、ろくなお付き合いもしてないと思います。デートとか……」

目を細め、何かを思案するアニス。

私の言った事に対して、少しは考えようという気になっているのだろうか。
窺うようにアニスを盗み見していれば、明後日の方に向けていた視線が私に戻る。

突然合った瞳は逸らす事が出来ず、蛇に睨まれた蛙のように、ただただ妙な汗が出る感触ばかりが肌に感じた。
でも引くに引けないし、このまま言いたい事を言ってしまわなければ。

「だから結婚なんて早すぎだと思うんです。もう少しお付き合いらしいお付き合いを」
「待って」

アニスの一言で私の言葉を遮る。
もう少し私の気持ちを話したかったのに。

「明日じっくりと話をしようか」

私の訴えを聞き入れたような返事ではあったけど、一抹の……とても大きな不安がいっぱいに感じたのはなぜだろう。

「香夜ちゃんのお願い事、ちゃんと聞いてあげるからね」

悪巧みをする、そんな目を隠さずにいたからかもしれない。
目の前の悪魔はセリフと表情をまったくの別物としていた。








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