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空想庭園




どうしてそんな表情をするの?

「アニス……」
「こんなタイミングで言うの、凄く不本意だけど。ずっと、ずっと……、好きだったよ」

私を見下ろし、また好きだと呟くアニス。

「僕の手元に置きたくて、こうして一緒に居れるのが嬉しくて」

アニスは私の頬に指を這わせる。
フェンネルさんに触れられた時は怖いという感情しかなかったけど、アニスに触れられても何の嫌悪感も感じられない。

「本当の事全部言って、香夜ちゃんが逃げないかなって心配で、言いたい事、言わなきゃいけない事の半分も言えなかった」

ただ、アニスが何を言いたいのか、私は耳を傾けていた。
妙な緊張感のせいなのか、心臓の音がやけに大きく感じる。

「だったら何も言わないで、このままここで暮らしてても良いかなって思ってた」

そんなのは逃げでしかないんだけど、とアニスは息を小さく吐く。
私を見ていた目は徐々に下がり、アニスは私から退いて身体をベッドに投げ出した。

ベッドで隣り合うように横になると、アニスは私の身体に腕を伸ばした。

「フェンネルに邪魔されなきゃ、きっと何も言わないでこのままでいたかも」

悪戯めいたように私の指に絡め、手をつないだ。合わせられた目が恥ずかしくて逸らしたかったけど、逸らせる事が出来ない雰囲気で私はほんのりと顔を赤くさせた。

「僕の事、嫌いになった?」

好きか嫌いかと言われたら、……嫌いではない。
異性から好意を持たれる事の少なかった私にしたら、とても嬉しかった。アニスの告白には些か疑問は残るけど。

嫌いではない、と言う意味を込めて首を横に振る。それを見たアニスはホッとしたように微笑んだ。
私より少し体温を低く感じた掌だけど、それは次第に同じ温度へと変化していた。

「ご褒美貰おうと思ったけど、香夜ちゃんに言いたかった事言ったら、すっきりしちゃった」

手は繋いだままにアニスは転がるように仰ぐと、晴れ晴れしい声で呟いた。
並んで天井を見る感覚がたまらなく不思議だったけど、私もなんだか穏やかになれた。
フェンネルさんにされた事があんなに怖くてたまらなかったのに、本当に不思議だ。

和やかになった空気に、孕んじゃえば良いなんて言葉はこの際忘れても良さそう。
うん。きっと聞き間違いか、アニスの言い間違いだったのかもしれない。それに言葉のあやだったのかもしれないし。

ちらりと横を見れば、アニスと目が合った。
アニスは優しく笑っていて、自然と私の頬も緩んでいた。

繋がれた手にくすぐったさを感じたけど、だいぶ楽になった身体が安心を求めて私も軽く握り返した。

「香夜ちゃん」
「何ですか?」
「これからは遠慮くなくいかせてもらうね」
「何をですか……?」

今まで遠慮なんてしてたんだろうか?かなり疑問に思うけど聞き返さずにはいられない。

「色々、ね」
「色々って……、具体的に言ってくださいよ」
「言って良いの?」

アニスは絡めた指先で窺うように私の手を擦る。
良いのって言われても、言われなきゃわからないもの。私は当たり前と言わんばかりに頷いた。

「僕の趣味は知っているよね?」

アニスの趣味と言われて思いつくのは、悲しいかな。

「私を……おちょくる事?」

これしか思いつかない。本当に悲しい。嫌な趣味だ。

「残念でした。違うよ香夜ちゃん」
「毎日のように私を苛めて楽しんでたと思うんですけど」
「僕の愛読書は何でしょーか」

愛読書……。
頭を過るのは、あのいかがわしい雑誌。――月刊緊縛奴隷。
ザアッと血の気が引く気がした。

「もう一つヒントね。二階にある、玩具がたくさんある僕の趣味の部屋」

決定打!
私の脳内では危険信号がガンガン出ていて「逃げるが勝ち」の文字が乱舞する。

言わんとしている事を知った私に気付いたのか、アニスは逃げ腰の私の身体に手を回してきた。

「色々と勉強していたのを、やっと試せるねー。すっごく楽しみ」
「楽しみじゃないし、無駄な……勉強だと思います!」
「今まで我慢してたんだもの。香夜ちゃんをいっぱい満足させてあげるからね」

キラキラとした目で、弾んだ声の主、アニス。私が訴えても聞こえないふり所か、完全な無視をしてくれる。
私はと言えば、どんな事をして満足させるのか想像が難しく、ただただ頭を横に振り続けた。

「花嫁修業、がんばろうね」
「どんな花嫁修業ですか!?」
「僕が手取り足取り教えてあげるから、がんばろうね」

横たわっていた身体が私に覆いかぶさるようになり、アニスは笑顔の圧力をかける。
アニスの言う事は最早強制的で、私が拒否をしてもそれを受け入れようとしない。

「もっと仲良くなれるように、スキンシップも大切にしようね」
「ちょっ、待ってくださいっ!」

迫るアニスの顔から逃げるために、目の前の肩を慌てて押す。けれど、それはすぐにアニスの手によってベッドに抑えつけられた。
乱暴に見えたやり方ではあったけど、落ちてきた唇はとても柔らかで穏やかなものだった。

「優しくするから心配しないで?」

抵抗しようと思っていたのに次第に深くなっていったキスが気持ち良くて、私は素直にアニスを受け入れた。
上がる息に火照る頬が熱くて、言った通りの優しいキスに流される。

「これからも仲良くしていこうね」

どんな風に仲良くしていくのかはわからないけど、アニスとの生活はまだまだ終わりそうにない。






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あきゅろす。
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