その日の内に呪いの鏡達をどうにかアニスの部屋に押し込む事に成功し、視覚的に騒がしかったリビングが静けさを取り戻した。 またいつもの日々に戻れると思っていたのに、あの呪いの人形とのキスをしてからというもの、どうも身体の調子が良くない。 朝起きても疲れが取れないどころか、身体のあちこちが痛い気がする。 本当に呪われたのかな?とすごく心配だったけれど、翌日にその心配は確信に変わる事になった。 「……何、これ」 お風呂場の鏡を見れば、私の肌に赤い線状の痣が胸や手足など身体中にある。 痛みはなくとも、気味の悪い痕に恐る恐る触れてみた。 「痛く……ない。でも何でこんな痕があるんだろう。あの人形の呪い?それとも鏡?」 薄気味悪くは思ったけれど少し様子を見る事にしようと思い、そのままお風呂に入った。 それからいつものように寝る前の牛乳を飲んでから、少しばかり身体の痛みはあるもののベッドに入って横になった。 身体中が痛くて、苦しくて。身体を締め付ける圧迫感がいつもより強く感じた。 そして息苦しさで目が覚めた。 「……んっ、くっ」 「おはよ、香夜ちゃん」 アニスがベッドの横にいて、私の顔を覗きこんでいる。 そして私と言えば……。 パジャマ姿で身体を縄で縛られていた。 両腕は頭上で一つに纏められていて、ベッド柵に繋がれている。いくら動いてもそこから動けない。 パジャマの上からではあるけど、胸を括り出すような格好で縛られている上半身。 下半身といえば、足を曲げた状態で大きく開かれていた。これもベッド柵に繋がれているようで、開いた足を戻す事が出来ないでいた。 「アニス……これは」 「見てわからない?んー、まだ寝ぼけてるのかな?」 恐る恐る聞いた私に、アニスは何でもなさそうに笑っていた。 「たまには香夜ちゃんと遊ぼうかなーって思ってさ」 アニスは恐怖で引きつりつつある私の頬を指で突き、また笑った。 「あ、遊ぶにしても悪趣味ですっ」 「ほら、僕最近忙しくて香夜ちゃんをかまってやれなかったからさ」 「別に良いですから!かまってもらわなくて結構ですから!」 「どんな気分?」 「気分悪いですから、今すぐにこれを取ってください!て言うか、私の言ってる事を無視しないでください!」 「駄目だよ」 「どうしてですか!」 「香夜ちゃんは僕の奴隷なのに、どうしてご主人様が奴隷の言う事聞かなくちゃならないの?」 さも不思議そうに言うアニスに、私の言っている事が間違ってるとさえ思ってしまう。 「ど……奴隷にだって人権はあります!」 嗚呼、言いたくなかった奴隷の言葉を声を大きくしてしまい、軽く自己嫌悪。 「だって……、香夜ちゃん、とっても綺麗なんだもん」 私からの訴えはことごとくアニスによって遮られ、無視され……。しかも初めて綺麗なんて言われたのが、こんな姿の時。 楽しそうに言うアニスに私は血の気が一気に引いていった。 「香夜ちゃん、可愛い」 そう言ってアニスは私の耳元で囁くと、耳たぶを食んだ。その瞬間、ぞくりと背中が震える。 「――やっ、あ……」 「好き、大好きだよ。香夜ちゃん」 「す、き……?……やっ、あンッ、やああっ」 身動きが取れなくて、僅かに身体を揺らすしか出来ない私は、耳元で告げられた言葉に悲鳴に似た喘ぎ声を出した。 「香夜ちゃんをもっと綺麗にしてあげるね」 そう言って、アニスは私の目の前にハサミを持ち、パジャマに手をかける。 何をするかなんて一目瞭然で、私は身体を揺すってその手から逃げようとした。 「や、だっ!アニス!止めてっ」 私が嫌だと言っているのに、アニスはハサミを持つ手の動きを止めようとはしない。 ジャキジャキという音と共に、私のパジャマは見るも無残な姿へと変貌した。 「もっと綺麗になったね。とってもいやらしくて、僕……たまんないよ」 パジャマはすでにパジャマではなくて、ただの布切れ。その布切れを縄の隙間から取り払いながら、うっとりとした表情でアニスは言う。 下着だけは辛うじて切られてはいないけど、かえって卑猥に感じた。 「アニス、どうしたっていうの!?何でこんな……理由を言って!理由を!」 「理由なんて簡単だよ。香夜ちゃんが可愛いから、縛りたくなっちゃったんだよ」 テヘッと効果音が出そうな程の可愛い仕草で、とんでもない事を言うアニス。 「それに、僕の香夜ちゃんなのにフェンネルに傷つけられそうになってたし。だからフェンネルに盗られる前に、僕がいっぱい可愛がってあげたくてさー」 「あんな前の事……!?それにフェンネルさんに盗られるも何も」 ――ギシリとベッドが軋み、アニスは私に顔を寄せてきた。 私が時間稼ぎのようにアニスに言い返してしても全く意味を成していないようで、近付くアニスを困惑の目で見ていれば一瞬にして唇が重なった。 二度三度とくっついては離れるを繰り返すと、それは深くなっていった。 「あ、ん……や、……だ、アニ……」 私の頬を手で包み込みながら、優しく撫で上げる。 アニスの薄い唇が私の唇を食むようにし、私の口から漏れる声すらも食べていた。 口内では逃げ惑う私の舌をアニスは器用に追いかけてきて、そんな事に必死になっていると形容しがたい疲れが舌の動きを鈍らせていった。 息をするのも忘れるぐらい逃げ回ったせいか、唇が離された時に私は肩で呼吸をしていた。 「ちょっとキスしただけで顔を火照らせて、益々色っぽくなっちゃったね」 キスが止まっても、顔をなぞる手は止まらない。背中を震えが這い上がる。 でも意外な事に嫌悪感はなく、身体の芯が熱くなるの戸惑いながらも感じた。 「これ以上進んだら、香夜ちゃんはどんな風になっちゃうんだろうね」 「っ、やあっ!アニスッ……やああっ」 縄とブラジャーの隙間に指を差し入れ、アニスは力強くずり下げる。 擦れた布が敏感になった部分を掠めたせいか、身体に電気が走ったように痺れた。 「香夜ちゃん、乳首立ってる。可愛い、食べちゃいたいくらいだよ」 「たた食べないでっ、止めてっ!」 「……んー、わかった」 やっと私の訴えを聞き入れてくれた。少しホッとしたのも束の間。 「じゃあ味見だけね」 「あっ、やあ、ん……っ!」 ねっとりとした熱い舌で私の乳首を舐め上げたかと思うと、アニスはそこに歯を立てた。 「……痛っ、や……だあっ」 「ああ、ごめんね。あんまり美味しくて、味見じゃ終わりそうもないや」 アニスは濡れた唇を真っ赤な舌で舐める。軽く涙目になる私に、アニスは続けた。 「でも気持ち良いんでしょ?」 ほら、と。アニスは私の下半身に手を伸ばし、太股をなぞりながら陰部に指をやった。 「しっかり濡れてるし」 「そそんな事はっ」 「認めたくないなら、香夜ちゃんが感じた証拠を見せてあげる」 下着の上から陰部を上下させていた指が隙間に入り込む。 「やだっ、やっ……」 アニスの指は私から出た愛液でぬるぬると滑り、何度も往復させた。 「んあっ、やあ……、ひんっ」 「ほら、見て」 下着の中から手を抜出し、アニスは濡れた指先を動かしながら私に見せつけた。 愛液が糸を引く様は、私にとてつもない羞恥心を呼び起こした。 「やあっ」 「目を逸らしちゃ駄目だよ」 アニスはそう言うと、再び下腹部へと指を這わせた。 「すごく膨れてるよ、ここ。気持ち良い?」 「そ、こ……ヤダァッ、や、何っ、ヤアッ」 花芽を掠めながら、陰部を何度も往復する。 私の反応を楽しむかのように、何度も、何度も。 「変な……感じっ、やだあっ、ヤッ、ンアッ!おかしく……なっ、ちゃ……うっ……」 「おかしくなっても良いんだよ。ほら、遠慮しないでイッちゃいなよ」 「え……、わかっ……ないっ、あっ、ハァッ、ンッ」 「あれ?わかんないの?香夜ちゃんってイッた事ないのかなー?」 よくわからない事を言うアニスに、とりあえず不自由な身体で首を縦に振った。 せり上がってくる快感に戸惑いながらも、触られる場所が熱くて仕方がない。……私はこれからどうなるの? 「じゃあ、僕が初めて香夜ちゃんをイカせた男になるんだね」 楽しそうに、どこか嬉しそうに喋るアニス。 そして指を早く動かし、内壁を擦り上げてきた。下半身に自然と力が入れば、アニスの指の大きさを体内で感じる。 「やっ、あっ、激し、……よっ、やああっ」 「ふふっ、嬉しいなあ。香夜ちゃんはイク時にどんな顔するんだろうねえ。楽しみだなあ」 アニスは私の顔を覗き込むような形になりながら、指を激しく動かした。 両手を使い、敏感な花芽も一緒に嬲られる。 「凄いね。僕の指をぎゅうぎゅうに締め付けてるよ。僕の指、そんなに美味しいの?もっと増やしてあげようか?」 「やっ、アッ、アンッ、ああっ!」 「ほら、気持ち良さそうな顔になってきた。すごくいやらしい表情だね」 増やされた指に、私の中は圧迫感で少し苦しい。けどそれはすぐに快楽へと変化した。私が出す愛液が、厭らしくも滑る潤滑油になっているから。 思わず漏れる声が恥ずかしくて、唇を強めに噛んで逃れようとした。 「声は我慢しない方が楽になれるよ。声出さないでイッちゃったら苦しくて意識まで飛んじゃうよ?」 「んんーっ」 「先にイカせてあげる。そしたら、今度は僕ので気持ち良くしてあげるからね」 呼吸が満足に出来ないせいなのか、それとも今起こっている現実から目を逸らしたいからなのか。アニスの声なんか聞こえないくらいに私は、もたらされる未知の快楽に堕ちそうになっていた。 |