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空想庭園




「香夜ちゃんて、本当に懲りないね。救いようのないバカだけど、ここまでバカだと思わなかったよ」
「すみません」
「僕言ったよね。電話を使う時は、僕の許しを得てからじゃないと駄目だよって言ったよね?」
「はい、ごめんなさい」
「こんな言いつけも聞けないようじゃ、フェンネルにまた騙されちゃうんじゃない?」
「その通りです。申し訳ないです」

私がアニスの言いつけを破ったから、ただ今説教中です。
そんな中、アニスが座るソファーの前で正座を強いられて、私は痺れる足と戦っていた。

「でもさ、香夜ちゃんって本当に単純だよね。何度言っても、僕が隙を見せると思った通りの行動を起こすんだもん」

そんな事はないと言いたかったけど、それよりも何よりも私は足が痛い。

「それに僕は香夜ちゃんに反省してもらうつもりでこんな事してるのに、香夜ちゃんは僕の話を聞いてないみたいだし」
「ひぃいいッ!アニ、アニスッ、触ら、ない……でっ」

アニスは足を伸ばして、遠慮なしに私の足を突いた。
ひいひいと言いながら悶える私はその場に倒れこんで、痺れる足を震えながら伸ばした。

「これからは僕の言う事をちゃんと聞くんだよ?」

わかった?と言いながら、アニスは私の足をなおも突く。
私には反論なんて出来ず、ただアニスにされる仕打ちにのたうち回るしか出来なかった。

足の痺れが引いた頃、アニスと漸く落ち着いて話をする事が出来た。
それでも、アニスはソファーに座っていて、私はその前に正座をしている。
たったさっきまであった光景に逆戻り。また足が痺れて……の繰り返しにならなければ良いけど。そうならないためにも、私は何度も細かく正座する足を組み換えて、足が痺れないように対策をとった。
でもアニスは私の小さな戦いなんて気にせず、どこかで見たような黒い布の塊を持ち両手を突き出した。

「香夜ちゃん、はいこれ」
「これは……」
「早く着替えてね」
「……嫌です」

渡された黒い布の塊はハロウィンの時に着た、あの黒猫の衣装。どうして今更そんな物を持ち出したのか……。
私は顔を背けて、身体と言葉で拒絶した。

「自分で着れないのなら僕が着せるけど。その方が良い?」
「滅相もございません。今すぐに着てきます」

アニスは首を傾けて悪戯に笑う。本気で言っているのか冗談で言ってるのかわからないけど、どう転んでも着ないで良いなんてならなさそう。
私は無言でリビングから出て、部屋に駆け込んですぐにドアを閉めた。今回は足が痺れない対策をとっていたおかげですぐに動く事が出来て部屋に逃げ込めた。
時間を稼ぎたい所だけど、そんな事をやった所で無駄だし……。ベッドに衣装を投げ、私は諦めて服を脱いだ。

こんな服に着替えさせて、アニスは何を企んでいるのか私には見当もつかない。
もしかして、これを着て一日家事をしろっていうのだろうか。嫌だ、嫌だよ。本当に罰だ。
ため息をつかなきゃ、こんな服に着替えられない。

どうにかこうにか服を着て部屋を出る。とても足が重い。ついでに気持ちも重い。
一昔前の絞首刑の罪人は階段を上がるかもしれないけど、私は階段を下りながらそんな事を考えた。今まさに処刑される気分に等しいのだから。

リビングに入ればアニスは笑顔で私を迎えた。
私にしたらこの上ないほど憎らしい笑顔。

「こっちに来て、早く座って」

私をソファーに誘い、アニスの向かいに座れと急かす。
渋々と重い足を引きずるようにして、ソファーに腰を下ろした。
私が座るや否や、アニスは浮足立ちながら側に来た。

「今回はこれにしようね」

アニスは私の背後に立ったかと思うと、鈴のついたチョーカーを外した。
露出の激しい衣装のせいなのか、首を少しだけ覆うチョーカーがなくなっただけで心もとない。
少しだけ涼しくなった首元に手をやろうとすると「赤と黒で迷ったんだけど」と言いながらアニスは私の首に新たに何かを付けた。

軽かったチョーカーとは違う、少し重量感のある物。

嫌な予感がした私はすぐさま私は脱衣所にある洗面台に行き、鏡で自分を映した。
チョーカーの変わりにつけられたのは真っ赤な首輪。
呆然としながら首についた首輪を触る。声すら出せなくて、息をする事すら忘れてしまいそうなほどに驚いてた。

そしていつの間について来たのか、私の背後に立つアニスはそんな私とは反対な笑顔でどこ吹く風。

「じゃあ、散歩に行こっか」
「嫌です!」
「ほら香夜ちゃん、行くよ」
「嫌ですってば!」

断固拒否を示す私に、アニスは首輪に紐をつけた。……これはリードですか?

「今日は天気も良いからお散歩日和だねー」
「だから行きませんってば!嫌です!」

アニスにリードを無理矢理引っ張られるもんだから、首が軽く締まる。
苦しい、苦しいよ!

「アニスッ、苦しっ!」

廊下を引きずられ玄関までやってくると、もがく私を無視して靴を履くアニス。
そんな隙をみてリードを引っ張り返そうとするも、逆にもっと引っ張られる始末。

靴を履き終えたアニスはドアの前に立ち、私に身体を向き直した。

「靴履かないなら履かないで良いけどね。猫は靴を履かないし。リアリティがあって良いかもね」
「履きます!」
「じゃあ五秒間だけ待ってあげる。はい、スタートー」
「ま、待って、待って!」

五、四、とカウントダウンをするアニスを横目に見ながら、履きやすそうなローヒールのミュールを履いた。

「じゃあ出発ー」
「こんな恰好で散歩なんて行きたくないです!恥ずかしいですから!」

私が心の叫びを口に出せば、玄関のドアを開きながらアニスは立ち止まって私に振り返った。

「僕、言ったよね。躾と罰が必要だって」
「……言ってましたけど」
「躾は奴隷としての心得、ご主人様に対しての絶対服従をもう一度思い出させる事。罰は恥ずかしい思いをしたら、香夜ちゃんは二度と繰り返さないでしょう?……繰り返すようだったら、何度でも辱めるだけだから別に良いんだけど」

恥辱のレベルはどんどん上がるけどねと、アニスは言葉とは裏腹の明るい笑顔。
羞恥と恐怖で呆然としてると、それ幸いとアニスは私を引きずりながら軽い足取りで玄関を出た。
しかし、私はどうしても諦められなかった。







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あきゅろす。
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