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空想庭園



「香夜ちゃん、今日は僕の誕生日なんだけど」
「え、そうなんですか?」
「プレゼント、くれるって言ってたよね」
「私そんな事」

言ってないと続けようとした言葉は、アニスが取り出したICレコーダーによって遮られた。

「もうすぐ誕生日なんだよねー」
「わかりました。プレゼント用意しておきますね」
「わー、ありがとう香夜ちゃん。……嘘ついたらお仕置だからね」
「わかりました」

ICレコーダーから聞こえてきた声に絶句。
言った覚えも、交わした覚えもない話に、私は唯唯絶句。

後で知らない忘れたなんて言わせないために録音したと、アニスはICレコーダーを大事そうにポケットにしまいながら言った。

でも私にはそんな約束の記憶は一切ございません!

「プレゼント何かなー?」

高らかに笑うアニスはまるで勝者のように勝ち誇っている。
そんなアニスを前にがっくりと肩を落とし、私はこれからどうしたら良いのか、混乱する頭を巡らせた。
プレゼントをやらないでおいて、お仕置なんていただきたくない!
とりあえず、予防線を貼っておこう。私の為に。

「プレゼントって、気持ちですよね」
「そーかもしれないけど、相手が喜ぶような物じゃないと気持ちも何もあったもんじゃないよねー」

言葉に詰まる。
予防線にならないじゃない!
お金ない、外に出れない、自由ないのないない尽くし。

約束したからには何か準備しなきゃ。

「覚えがないけど……」

ため息をつきつつ、私はシンクの洗い物を片付けた。

アニスの欲しい物って何なんだろう。
ふと思い、ソファーでくつろぐアニスに声をかけた。

「何か欲しい物でもあるんですか?」
「この世に二つとないものが欲しい」

私の方は見ず、視線は手元の雑誌に落ちたまま簡単に答えるアニス。
解釈の難しい返答に、聞かなきゃ良かったと後悔した。
この世に二つとない物なんてたくさんある。
その中からアニスの望む物は探せそうにないし、探す気力もない。

「他にヒントはないんですか?」
「小さくて、可愛くて、僕の言う事を聞かないの」
「……それ、ヒントですか?」
「すっごいヒントだよ」

わからない……。

洗い物を終え、二階から掃除をしようとモップを持って階段を上がる。

「小さくて、可愛くて、アニスの言う事を聞かない、この世に二つとない物……」

呪文のように繰り返し呟けば、ロビンがアニスの部屋から出て来た。
大きく伸びをすると、私の足元へすり寄って来た。

「ニャウン」
「これから掃除するんだから、危ないよロビン」

と言いながらも、私はモップを置いてロビンを抱き上げた。

「このモフモフも癒されるー」

ウニャウニャと鳴くロビンの毛に顔を埋め、しばしの癒しを堪能。
トニー達も癒しだけど、この体温が今の私にはとても癒される。
ザリザリとざらざらなロビンの舌が私の頬を舐める。痛いような、くすぐったいような感覚に、思わず笑ってしまう。

「うへへ」
「香夜ちゃんは変態?」
「うひゃあっ!?」

突然背後から声をかけられ、私は抱いていたロビンを手放してしまった。
しかしそこは猫。何の苦もなく上手に着地し、再び私の足元へとすり寄って来た。

「ご、ごめんねロビン!大丈夫?」

何でもないと言うかのように、私の足元で前足を舐めるロビン。

「いきなり声をかけないでください!びっくりするじゃないですか!」
「ロビンにほっぺた舐められながら妙な声で笑ってたら、僕の方がびっくりだよ」

それは……反論出来ない。

「ロビンおいで。仕事手伝ってもらうからさー」

部屋に入ろうとするアニスはロビンを呼ぶが、ロビンは気にする様子もなく、後ろ足で首を掻いていた。

「ほら、ロビンー」

アニスは強引にロビンを抱上げると、部屋に入って行った。ロビンはとても不満そうにしていたけど。

「はっ!そうか!」

閉じたドアを前に私は思い立ち、早速行動に移した。

確かリボンがあったはず、と。私は自分の部屋のクローゼットを漁った。

「あったー!」

赤いリボンを探し出し、私は任務完了とばかりに喜んだ。

それからいつものように家事に勤しんだ。夕食後すぐにアニスにゆっくりとお風呂に入ってもらい、私はその隙にプレゼントを準備した。

アニスがお風呂から上がり、リビングに入って来た時。

「アニス、お誕生日おめでとうございます」

私は満面の笑みでプレゼントを差し出した。
黒猫ロビンの首に赤いリボンでデコレーション。
注文通りのプレゼントに、私は得意顔。
一方、アニスはなぜか冷めた目でロビンを見下ろしていた。

「どう?嬉しいですよねアニス!何と言ってもご希望の品なんですもの」

欲しがっている物をプレゼント出来るって、贈る側としても嬉しい。

「じゃあ私もお風呂に行って来ますね」

浮き足立つ私はゆっくりとお風呂を楽しんだ。
お風呂から出るとリビングの灯が消えていて、もぬけの殻になっていた。
私はお風呂上がりの一杯を飲み、早々に部屋へと戻った。

ベッドに入りながら、今日は良い事をしたと我ながら大満足。
良い夢でも見れるかも、と淡い期待に胸を膨らませながらウトウトとしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
時計を見れば日付が変わるそんな時間。

「……はい」

眠くなる目を擦りながら、私は返事をした。一体何の用事なのか……。

「香夜ちゃん、僕の誕生日今日じゃないから」
「……は?いきなり何ですか?」
「今日は何月何日?」

日付は変わりそうだけど……。

「四月一日……」
「今日は何の日?」
「……エイプリルフール」
「これ、全部僕の声」

再生されるレコーダーからは、今朝聞いた私とアニスの会話。
全部アニスの声なら、私が覚えてないのも当たり前。

また騙されたと、寝入りばなだった私は悔しさでいっぱいになって、その晩は眠る事が出来なかった。




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あきゅろす。
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