今日の仕返しとばかりに、ケチャップライスならぬタバスコライスで出来たオムライスをアニスに作った。 ケチャップライスに似せるためタバスコを三本。 家にあったタバスコのストック、全て使い切ってのリベンジメニューはかなりの大作だ。 私なりの精一杯の仕返し。 仕返しの仕返しは怖いけど、それほど私は嫌な思いをした事を知って欲しかったから。 タバスコライスを作ってる途中、タバスコの辛さが目や鼻の粘膜を直撃し、涙と鼻水を垂らしながらの作業。 そんな私を傍目から見れば、どこか情けない姿に映るかもしれない。 この刺激臭が部屋に籠らないように、換気扇はフル回転にしている。気配りもバッチリだ。得意そうにしているが、やっている本人は至極真面目。 アニスには特製タバスコオムライス。 私のは普通の美味しいオムライス。 トロトロの卵で包めばタバスコライスもケチャップライスも見分けがつかない。 だから簡単に見分けがつくよう、タバスコオムライスにはエビのカクテルサラダやコリンキーのグリル、アニスが好きな気味の悪い魚のソテーを一緒のプレートに乗せる。 一方、私用のオムライスには人参やブロッコリーの温野菜をプレートに添えただけのシンプルなモノ。 見た目にもアニスのタバスコオムライスの方が断然美味しそうにも見えるし豪華だ。 辛さや酸味でむせ、涙目になるアニスを思い浮かべて一人ほくそ笑みながらスープをセットし、リビングで能天気にテレビを見ているアニスに声をかけた。 「ご飯出来ましたよ」 「オムライスー」 アニスは跳ねるようにダイニングテーブルに着くと、目の前に置かれたお皿に目を輝かせた。 「僕の好きなモノが一杯だねー……」 ウキウキした声を出していたアニスの声が尻すぼみ、皿から目の前に腰を下ろした私に顔を向けた。 「どうして僕と香夜ちゃんの付け合せが違うの?一緒のメニューにしてって言ったはずだよね?」 「べ……別に。ほら、今日ツキちゃんに会わせてくれたから、そのお礼。だから今回だけは大目に見てくださいよ」 アニスは、ふぅんと鼻を鳴らしながら特製タバスコオムライスを見つめていた。 ばれたかな?ばれてないよね!? ドキドキしながら勤めて平静さを装い、アニスがスプーンを持つその瞬間を待つ。 「じゃあ」 そう一言呟いたアニスはスプーンではなく特製オムライスの乗ったお皿を持って、私の前に置かれたお皿と交換した。 「今日月胡ちゃんとの楽しい一時を邪魔したお詫びに、この美味しそうなオムライスと交換してあげる」 今までにないくらいの、とっておきの笑顔で。 「え、いや、待ってアニス」 「どうしたの?遠慮しないで」 「ちょ、あのですね?これはアニスのために一生懸命作ったオムライスだし……って、やだ!あーっ!」 慌てる私を見もせず、アニスは私用に作ったオムライスを一口食べた。 「んー、ケチャップの甘さが美味しい。卵も柔らかーい」 とびきりの笑顔で食べるアニス。 対する私は顔面蒼白で、アニスから目の前に置かれた恐ろしいタバスコオムライスを見つめた。 「冷めないうちに食べちゃいなよ」 「……いや、今日は何だか食欲が……。疲れちゃったのかな?」 私はぎこちないながらも疲れた素振りを見せ、自然な流れでその場を去ろうと立ち上がる。 しかし悪魔は微笑んでこう言った。 「早く食べなよ。その辛ーいオムライス」 「ひぃっ!」 顔は笑っていても、声のトーンがかなり低い。 怖い。目の前にあるタバスコオムライスも怖いけど、迫力のある笑顔で食べる事を促すアニスが怖い! いつばれたんだろう。どうしてばれたんだろう。 アニスはテレビから視線を外していなかったし、私もアニスに見つからないようにと細心の注意を払って作ったつもり。 なのにどうして!? 「香夜ちゃんの考えてる事くらい簡単にわかるんだから。僕を罠にかけようなんて思わない方が良いと思うよ?ね、早く食べてよ。僕に食べさせようと一生懸命作った辛いオムライスをさ」 アニスが涙目になるはずだったのに……。 「私お腹が痛い……。部屋に戻らせてもら」 「更に嘘をつくつもり?」 静かに凄むアニスに、私が涙目でひたすら謝罪をする事となってしまった。 |