「あはははっ!ユベール、何それ!?カボチャの提灯?そんな恰好してるのにカボチャの提灯とかっ……」 どうやらユベールさんの出で立ちがツボに入ったようで、楽しそうにしながらリビングに入って来た。 ツキちゃんのすぐ後ろから無言でいるユベールさんが怖いけど。それでもやっぱりカボチャオバケのランタンをしっかりと持っていた。 しかし空元気とでも言うのだろうか。 声は笑っているけど、ツキちゃんの顔は笑っていない。 それどころか強張っている感じが見受けられる。それに身体にはさっきまで着ていた服を胸に抱き、前身を隠していた。 「ツキちゃんの衣装は何?」 「吸血鬼のお供って言ったら蝙蝠でしょー?」 「カヤちゃん、私の恰好には触れないでーっ!見ないでーっ!」 「散々俺の恰好を笑っていたのにそれはないだろ」 そうか、ユベールさんを笑い飛ばす事で自分の恥かしさを紛らわせていたのね。 恥かしそうに蹲ってしまったツキちゃんに駆け寄れば、その背中には艶やかで小さな黒い翼があしらわれていた。 「ツキちゃん可愛いー、似合うよ?」 「そんな事ないー!お願いだから私はいないモノだと考えてー」 「月胡ちゃん、立って。皆に見せてよ」 「私も見たい。ツキちゃん見せて?」 最初は恥かしかった衣装も、時間が経つに連れてそれが薄れていった。 まして私以上に恥かしがるツキちゃんを見ていると、その恥かしさが益々なくなる。 むしろその恥かしがる姿が可愛いとさえ思えてしまった。 ……何だろう。アニスに毒されている気がする。 押し問答をしながらそれでもツキちゃんは立とうとはせず、話も聞きたくないとばかりに耳まで塞ぎ始めた。 そんな姿を見ていると、やっぱり可哀想になり、アニスみたいなドSにはなれないんだと少し安心した。 「えーい。月胡ちゃんは蹲る事が出来なくなーる」 居た堪れない気持ちになっているとアニスが持っていた黒く発光する魔法の杖らしきものを振りかざし、ツキちゃんの両肩を軽く叩いていた。 妙なセリフと共に。 するとしゃがんでいたツキちゃんの身体が急に立ち上がり、驚いた顔で辺りを見ていた。 「や、ちょ!ナンジャコレー!立ちたくないのに立ってるー!変態緑何しやがったー!」 「だって僕、魔法使いだし。これくらい簡単だよ」 ツキちゃんが強制的に立たされた事によって、漸く見る事が出来た全身。 暴れるツキちゃんの衣装は小さな羽を背につけたコルセットタイプのミニワンピース デコルテを強調するのは、禍々しさを纏う茨に巻かれたプラチナの逆さ十字のネックレス。 うん、これも結構な露出があるのね。 私の衣装にはまだショートパンツがあるだけマシかな?ツキちゃんのはどう見てもワンピースのみに見える。 「ほら、あんまり暴れるとスカートが捲れちゃうよ?」 「別に見えても減るモノじゃないんだ、どうでも良いだろう。それより腹が減ったぞ」 「あ、ちょっとしたオードブルなら用意してますけど、食べますか?」 「もらおう」 喚くツキちゃんを煽るアニスを横目に、キッチンに向かう。 申し訳ないとは思うけど、ツキちゃんが注意を引いてくれているおかげで、アニスは私で遊ぶ事がない。 本当に本当に悪いとは思うけど、少しホッとしてしまった。 心の中で「ツキちゃん、頑張れ」と無責任に応援し、パーティー用に作ったオードブルを冷蔵庫から出す。 見た目は結構綺麗に出来た。……ただ、材料がまた見た事もない食材ばかりでどう調理して良いかわからなかったから、怖くて味見はしていない。 「好きな味なら良いんですけど」 「あんまり美味しくなかったけどね。ユベールの嫌いな味だと思うよ」 「……口に合わないモノは見たくもない」 アニスはツキちゃんをからかいながらも、私にもしっかりと茶々を入れてきた。 ……しかしいつの間に食べたんだろう。味見をしていなかった私は到底味の事なんてわかるわけもなく、ましてユベールさんの味の好みなんて全くわからない。 あ、でもすき焼きが好きな事はわかる。でもその程度。 ソファーに腰を下ろすユベールさんはアニスの言った事を信じたらしく、それ以降空腹を訴える事をしなかった。 食べられる事のなかったオードブルを冷蔵庫に戻そうとしていると、ツキちゃんで遊ぶのを飽きらかしたアニスが再び口を挟んだ。 「香夜ちゃん、その美味しくないオードブル、僕があとで食べてあげるから安心してね」 「美味しくないなら無理に食べなくても良いです」 「無理じゃないよ。僕が好き嫌いのないご主人様で良かったね」 ふてぶてしい、そして恩着せがましいセリフを言ってのけるアニスに口元を引きつらせながら、オードブルののったお皿をテーブルへと戻した。 ツキちゃんはと言えばアニスにぶつけられない怒りをユベールさんに訴えていたけど、ことごとく相手にされずに闇雲に怒りを発散させていた。 ちょっぴり楽しみにしていたパーティは波乱な幕開けをし、最後までこの調子だったのは言うまでもない。 私達以外の誰かがいる、それも二人増えただけなのに。 それだけで家の中が和やかとは言えないけれど。でも、賑やかな一日でとても新鮮だった。 たまにはこんな日も良いかな?なんて言葉、誰にも言えないけど。 |