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空想庭園



カボチャカボチャカボチャ。

玄関には大量のオレンジ色のカボチャ。大中小と様々な大きさのカボチャが山積みにされている。

「アニス、これ」
「カボチャ狩りで採ってきたんだ。これを使ってハロウィンパーティーしよう、香夜ちゃん」

アニスが一つのカボチャを持ち、私に手渡す。
パーティーをしようと言われても、何をどうしたら良いのか。それよりカボチャ狩りって何。

「とりあえずカボチャをくり抜いて、ジャックランタンを作りたいからリビングに運ぶよ」

有無も言わさずに私の前をカボチャを持って通り過ぎる。仕方なく二人がかりで何往復もし、カボチャをリビングに並べた。

優に三十個はあるカボチャ。
これをあのカボチャオバケにするのか……。

「ほら、僕も手伝ってあげるから」

手伝うと言った割りには、とても楽しそうにしているアニス。第一アニスが言い始めた事なのだから、手伝ってあげるという言い方は絶対に間違ってる。

眉をひそめる私をよそにアニスは絨毯の上で胡座を掻き、中くらいのカボチャを膝に乗せてナイフでヘタの部分を切り込みを入れ始めた。

アニスはどうして人間の世界の行事に敏感なんだろう。
私がこの家に来た当初なんて、スイカ割りをやってみたいと言って庭でスイカ割りをやってみたり。
流しソウメンをやりたいからと、長く立派な竹を数本持って帰ってきた事もあった。

「ユベール達も呼んでハロウィンパーティーしようね。勿論仮装もするよ」

仮装……嫌な予感がする。

「仮装ってどんな服を着るの?」
「内緒」

それから私が仮装について問詰めても、即興のカボチャソングを歌い始めて耳を貸さない。

教えるつもりがなさそうなアニス。

諦めた私は楽しげにカボチャをくり抜くアニスと向き合い、小さなオレンジ色を手に取った。


それから三日間、アニスは一人で黙々とカボチャをオバケに仕立た。
私はと言えば、毎日大量に用意された家事をするだけで、オバケは一日で一個が精一杯だった。

ハロウィン前日はアニスの計らいにより、パーティー準備を優先させてもらった。
仮装と言う嫌な予感は日増しに強くなるけど、パーティーは楽しそうだ。
ツキちゃんも来る事だし、憂さ晴らしも兼ねて思い切り楽しいものにしたい。

ジャックランタンを玄関からリビングまでに置くと、それだけで雰囲気がガラリと変わる。

オレンジと黒の布でリボンを作っては飾って、窓に魔女の影を象った大きなシールを貼ってみる。
ハロウィン用のツリーを出してはオレンジと黒を基調としたオーナメントをかければ、家の中はハロウィン色に染まった。

「家の中はオッケーだね。じゃあユベール達が来る前に着替えようね香夜ちゃん」

可愛く飾り付けた装飾に満足していると、腕を引っ張られて二階へと連れて行かれた。それはもう拒否をする間もなく。

「これが衣装。可愛い黒猫だよ」

黙って受け取り、閉じたドアを背に腕にある衣装に視線を落とす。

「……はぁ」

楽しみなパーティーを前に、一番の難関に挑むつもりで見たものの、あまりの衣装の軽さにため息が出てしまう。
露出の激しい衣装なのはこの軽さが如実に表しているからだ。

戸惑いがちに衣装を広げてみれば、布地が薄く、そして小さい。

「……これを着れって言うの?」
「香夜ちゃーん。もし着れないなら僕が手伝ってあげるよー?」
「じじ、自分で着れます!」

突然ドア越しにかけられた声に衣装を抱き寄せて、どもりながら返事をする。

「じゃあ、次に声かけた時に着てなかったらドアぶち破って入るからねー。僕が直々にお着替えしてあげる」

冗談じゃない!
迷ってる暇なんてないと腹を括り、アニスの言葉に真っ青になりながら慌てて着替えを始めた。

「……どうしてこんな服」

急いで着るつもりの服も、衣装をまじまじと見ていれば自然と手が遅くなる。それでもノロノロとした動きで服を着てみるが、やっぱり気乗りがしない。
こんな楽しくないパーティーは初めてだ。

ワンピースを着て姿見の鏡を前に、自然とため息と共に頭を垂れた。
黒いベロアのワンピースは胸元が大きく開いていて、同色のレースがそこを飾っていた。

その姿を見た私は恥かしさのあまり思わずしゃがみ込んだ。

「無理無理無理ー!何ですか、このセクシーな服!」
「何か言ったー?」

大きな声で叫べば、隣の部屋からアニスの声が返ってきた。

「僕、もう少しで着替えが終わるからー。もうちょっと待っててねー」

待ってないし、まだ着替え終わらなくていいですよ!

最早猶予のない状況下で、慌てて同じ生地のアームウォーマーを腕に装着。
あまりに短いスカート丈に悲鳴を上げようと思ったけど、黒いショートパンツが組み合わせて用意されてた。
しかしそのショートパンツには弓なりに上向いた長い尻尾が付いていて履く事をかなり戸惑わせたが、それでも足を曝け出す部分を少しでも減らす事が出来るならと自分に言い聞かせた。

服を着終えた頃、残された付属品に視線を落とす。

「いくら猫だからって……」

首輪モドキのチョーカーには鈴がついていて、あまつさえご丁寧にも猫耳のカチューシャまで揃えられていた。

「着替えたー?ぶち破るよー」

その声に急いでドアを開ける。するとそこにはドアを足蹴にしようとするアニスが笑顔を見せていて、ギリギリの所で全てを身につける事が出来た私は胸を撫で下ろすと同時にへたり込んでしまった。

「可愛いね、似合う」

嘘か真かわからない賛辞を口に入ってきたアニス。
言われると思わなかった褒め言葉に赤くなっているだろう顔。そんな顔をアニスに見せられない。

「ちょっと褒めたからって恥ずかしがらないでよ。ほら顔上げて」

アニスに促されても下を向いたままモジモジとしていると。

「そんなに恥ずかしいのなら今すぐ脱がしてあげる」
「ちょっ!嫌です!やめ……」
「嫌なんでしょー?遠慮しないでさ、脱がしてあげるから」

抵抗しながらアニスを睨めば心底楽しそうな顔で私を見ていた。
まずい、またアニスのペースに巻き込まれてる。

「ア……アニスの衣装は何?」
「ん?僕は魔法使いー」

その格好が気に入ってるのか、私から手を離したアニスは大きなとんがり帽子に藍色のマントを羽織っていて、杖を振り回していた。

「ユベール達来るから、早く行こう」

呑気に笑顔を振り撒くアニスに再び引っ張られて階下へと連れて行かれる。

階段を降り立つと、玄関のドアが何の予告もなしに開いた。





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