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空想庭園



これは……、夢?それとも幽霊……?

「生きたい?それとも死にたい?」

誰もいないはずの部屋に、誰かがいる。それも若そうな男。
早く寝たせいか妙な時間に目が覚めると、見知らぬ男の声がした。そして唐突に生きるか死ぬかを問いかけられた。
何の事なのか意味がわからない。

レースのカーテンが外灯の灯りを薄っすらと取り込んでいて、ぼんやりとその男の姿を映し出す。

「じゃあ、僕が決めて良い?」

暫しの沈黙のあと、痺れを切らしたのか、男は軽く言った。

ちょっと待って。
寝起きで、尚且つ驚いて声を出せないのを良い事に勝手に話を進めないで。
その前に、わけのわからない二つの選択肢は一体何!?

漸く目が薄暗い部屋に慣れる。男は部屋の中を物珍しそうに見ているようで、私に背中を向けていた。
うら若き乙女……とは言いがたいが、嫁入り前の女の部屋を物色するんじゃない!
嗚呼!そのクローゼットには私の愛する子達がっ!

「嫌ですっ!」

思わず手を伸ばし叫んだ。すると男は物色する手を止めて私を振り見た。

「なぁに?」

ギリギリセーフ。
年甲斐もなくファンシーな趣味を知られるのは、いくら見知らぬ男とは言えこの上なく恥ずかしい。

「僕が決めてあげるのに」

残念だなと呟く男は私に寄って来た。
ベッドに仰向けにして寝ている私を覗き込み、目ばかりがやたらとギラギラと金色に光って見えた。

こ……怖い。
けど、逆に肝が座った気がする。
こんな得体の知れない男に、易々と命取られてたまるもんですか!

「じゃあ、もう一度聞くけど。生きたい?それとも死にたい?」

そんな問いかけ、答えは決まっている。

「い……生きたいに決まって」
「えー、それ困る」

私の言葉を遮って、なんて返答。
困ると言われても、こっちも困ります。

「それより、あなた……誰?人間……?」

肩を竦めて大袈裟に両手を開く男は首を横に振り、部屋の真ん中にあるテーブルへと歩いて行った。

「僕の名前知らないの?結構有名だと思ってたのに、かなりショック」
「有名人な、の?」

いくら目が慣れたとはいえ、灯りの下でなければ顔をよく拝む事が出来ない。
TVをろくに見ない私にでも見知ったような有名人なのだろうか。

私はベッドから降りて男と一定の距離を保ち、灯りのスイッチまでにじり寄った。

「そんなに警戒しなくても良いじゃん。僕、傷付くなー」

スイッチを入れ、明るい蛍光灯の下。
緑色の派手な髪の男が眉尻を下げて、いかにも傷付いてますと言った態度でションボリと肩を落としていた。

「いや、本当にあなた誰」

そんな男を目の前に、出て来た言葉は正直な心の声だった。

「有名人って……何やってる人?歌手?俳優?」

笑ってかぶりを振る男は、どうやらメジャーな人ではなさそうだ。だって、この姿形を見た事がまったくない。
マイナーな有名人なら全くお手上げ。
しかし自分を自ら有名人だと言い切るには、ある程度の信憑性がないと言えないはず。

「歌舞伎役者とか、お笑いの人?」
「違うよ」
「映画監督?どこか有名メーカーの社長とか」
「違うよ」
「弁護士?政治家?」
「残念、全部違う」
「本当に有名人なの?」
「かなり有名人」

最後の方は私でも有り得ないと思いながら言ったんだ。
こんな弁護士には頼みたくないし、こんな政治家がいたら投票する気が起きない。

けど、こんなにもあっさり言い切るほどの有名人。
そんな人がどうして不法侵入してまで、私の部屋にいるんだろう。

腕を組んで唸る。
有名人……、有名人……。

「僕、王子様」
「はぁ?」

目覚めたばかりの頭をフル回転させていると、男は自分を指差して満面の笑みを見せた。

困惑する私を余所に、男は言葉を続けた。

「で、こいつも有名人」

男は徐に窓際へ行き、カーテンを開けた。
目でそれを追っていた私は、きっと馬鹿面を下げていたに違いない。


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あきゅろす。
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