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空想庭園

 


「お前はまだ懲りていないようだな」
「や、やっだあ!ユベールったら、バッキバキに怒ってるぅ!」

地底から響くような低い声が響き、変態が一瞬怯んだ。その瞬間、ユベールはまるでサッカーボールを蹴るかのような動きで、変態の頭を弾き飛ばした。
それは本当、頭をボールのように力強く。苦しさが消えた事で絨毯に顔をつけて息をしていれば、廊下の奥に転がる……生首。しかもその頭は喋っている。

「ご、ごめんなさいー!だって、本当に死んじゃうと体力がだいぶ消耗してね!でもここはたくさんの呪いがあるから食べ放題でね!目の前にはさっきの王子の奥さんには劣るけど、ピチピチの呪いを貯め込んだ子がいるじゃない!食べてって言ってるようなものだったし……、身体もそんなに蹴らないでー!痛覚はあるんだからぁ!なんだったら先に頭を潰してもらえれば、よっぽど痛みなく逝けるからそれでお願いよユベールゥゥ!」

遠くの生首は悲鳴を上げている。
後ろの方に変態の身体があるけど、顔の向きを変えるのが億劫だからユベールのしている事は見えない。
けど、妙な効果音が聞こえてはいる。それに合わせて変態が実況中継をしながらの悲鳴が聞こえるから、やっている事はなんとなくわかる。

少しずつ悲鳴に力が無くなってきた頃、ユベールは廊下の奥に転がる生首の所へと歩いて行った。そして塵一つも躊躇う事なく、変態の頭を踏みつけた。その時には小さい悲鳴が一瞬聞こえただけで、すぐに生首がさっきまであった灰のように姿を変えた。

拘束されていた腕が解かれたようで、重力に倣うように手が身体の両脇に落ちた。すぐに起き上がるには、身体が憔悴しきっていた。
疲れた、帰りたい。髪も服もボロボロだ。……この恰好見せたら、先輩は帰って良いって言いそうだけど勝手に帰ったら怒られる。絶対。

転がる私を無視しているのか、見えてないのか。ユベールは社長室へと行き、ノックもせずにドアを開けた。

「廊下にリリーの灰がある。2度と復活できないように、城の地下に封じておけ」
「えー、何で僕ー」
「……ここに灰を置く以上、永遠に復活するぞ」
「ユベールが行ってきてよー。僕は香夜ちゃんとイチャイチャするのに忙し」

変態緑が何かを言っている途中で、ユベールはドアを勢いよく閉めた。それもドアを壊さんばかりに。
そして足音が私に近寄って来たかと思えば、私の身体をひっくり返してきた。

何か文句の1つも言いたそうな顔のユベールに、上から思い切り見下ろされている。
……何なんだよ、もう放っておいてくれ。

私の心の中の悪態を察したのか、ユベールはしゃがみ込んで顔を覗き込んできた。……かと思えば。

「……え、えええええっ!?」

急に私を抱き上げ、歩き始めた。

「な、なんで、何やって」
「お前がここに居る以上、リリー復活の餌になる」

呆気にとられる私は、このようなアングルでユベールを見た事がなかったから、とても落ち着かない。
ただ真っ直ぐ前を見る凛とした視線、薄い唇が器用に動く様を不思議な気持ちで見た。

誰にも興味無さそうにしてても変態緑の事は常に気にかけていて、どんな繋がりがあるのかいまいちよくわかってないけど。
ただの同居人の私の事を気にかけるような言動が、ここ最近よくみられるような気がする。

冷たいくせにどこか最後まで放っておかない、面倒を嫌うくせにどこか面倒見が良い、いつも無表情の事が多いけど笑顔以外だったら見た事がある。

「……あの変態は死なないの?」
「あれを消滅させるには、食った呪いの分殺さなければならない。大小様々な呪いが命となっているから半永久的に消滅する事はない」
「さっき言ってたけど、城の地下に封じれば出てこれないの?」
「封じておけば、復活しても餌となる呪いはないからな。少しくらい衰弱するだろう」
「今日のユベール、お喋りだ」
「……お前が聞いてきたから答えたまでだが」

真っ直ぐ前を見ていたユベールの目が、今度は眼光鋭くなって私に向けてきた。
やばい、マジ怖い。

「下ろして、歩けるから下ろして!」
「……歩けるものなら歩いてみろ」
「ぎゃっ」

ユベールに放り投げられるように、私は廊下に転がされた。
絨毯の上に転がりはしたけど、身体全部が痛い。

普通下ろすなら、もっと丁寧にするもんなんじゃない!?私を人間どころか、物か何かと思ってるんじゃない!?

「……全く、乱暴にも程が……、ん?」
「自分で歩くんだろう?」

足に……、力が入らない。足どころか、腕も……。

「お前はリリーのターゲットにされたからな。手も足も枷をつけられたから動かせないはずだ」
「そんな事なら最初からそう言えば良いじゃない!」

後ろ手に拘束されていたけど、それは解けたのに。枷なんて言ったって見た目には何も変わらないのに、それでも何も動かせない現状を考えればあの変態に何かをされたとしか思えない。

「だったら黙って俺のする事に口答えするな」

私が何か言っても、きっとまた睨まれて何かしら思い知らされるような事をされて終わるのだろうと思うと、今はユベールに何も言えなかった。

再び私を抱き上げて1つの部屋に入った。

「とりあえずここに居ろ」

社長室と同じフロアの、第3会議室。そこの5人掛けの大きなソファーに転がされた。
さっき廊下で放られた時よりは、ちゃんと丁寧に扱われはしたけどやっぱり物のような扱いだ。

「枷を付けた張本人でなければ、これは外せないからな」

見えない何かを見るように、私の足元へと視線をやった。
そしてすぐに部屋を出て行った。



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あきゅろす。
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