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空想庭園




先輩から言われて、嫌々だけど来た社長室。カヤちゃんに会うのは全然良いんだけど……。

でも行けばどうせ変態緑に会う事にもなるから、どうしても中に入る事を戸惑ってしまう。
こっそりと中を覗こうとすれば、薄く開けたつもりのドアが大きく開いた。

「手短にしろ」

目の前には眉間に皺を寄せたユベールと、……足元には蹴り転がされてる女。

気圧されるように、私は一歩二歩と後ずさった。
苛々したユベールよりも、足元の女に目が行く。
女の私から見ても見た目もスタイルも良いとすぐわかるくらいのこの女が、どうしてこんな事になっているのか。

ドアが閉まり、2人は完全に廊下に出た。

「月胡、香夜は中だ」

ユベールは女の腹を強く踏みつけていて、女は苦しそうに呻き声をあげている。
確かに私はカヤちゃんに会いたくてここまで来たけど、今はそれどころじゃない。

「……ユベール、あんた何やってんの」
「ゴミを処分している」
「た……たすけ……コロ……」

呻く声の中に、私に助けを求める声。
私はしゃがんで、女の様子を眺める。

「ねえ、この女、私に助け求めてるけど。一体どうしたらこんな事になるん?」
「……ゴミは香夜が拾って来た。俺は処分しているだけだ」
「ふーん」

女が震える手を私に伸ばしてきた。
なんだ?と思った瞬間バランスを崩され、廊下に転がってしまった。

「イッ……!」

震えていた筈の手が、強い意志を持ったように急にしっかりと動き始めた。
その手が私の頭に回り、そのままぶつかるように唇が重なった。
食むように、女の舌が口の中を撫でまわしてくる。
逃げたくても、逃げられない。私の頭を押さえる力は、とても女の物とは思えないほど。一瞬の事なのに、息もつかせないくらい深く口付けされた。

「っぐえええええ!」

でも次の瞬間、襟首を後ろから掴まれ、思い切りひっぱられた。
首が締まって死にそうになったけど、どうにか女から離れる事は出来た。
私に意識が行った事で、女はユベールから逃げる事が出来てゆっくりと立ち上がった。

「リリー、いい度胸だな。そんなに死に急ぎたいか」
「だ、だって!王子とユベールにボロボロにされて体力がなくなったんだもの!この子だってすんごい呪い持ってるし、栄養補給したって良いじゃない!何なのよ皆で寄ってたかってあたしの事虐めて!でもそんなユベールも好きよ!愛してる!」

あ?この女、ユベールの女なん?
私はそんな女にキスされて、ユベールに首を絞められて。

「……何私にキスしてんだ、気持ち悪い。私はそっちの趣味ないし」
「気持ち悪いなんて言わないで?あたしはリリー、よろしくね?もう、何怒ってるの?……あぁ、もしかしてあなたも、あの子と一緒なのかしら?じゃあこれならどう?」

そう言った女は、私の目の前で真っ赤な長い髪を手で流した。
突如としてスタイル抜群な女は姿を消し、男の姿へと変化した。

「もう少しだけ、あたしにその呪い味合わせて?」
「香夜から月胡に乗り換えるつもりか?」

ユベールは長い赤い髪を手繰り寄せるように掴んだお陰で、私に伸ばされた手が止まった。

「何?カヤちゃんにまで手を出したって事?」
「手を出したって言い方は好きじゃないわ。ちょっと栄養補給しただけで、手を出したいと思うのはユベール一択よ!あたしは浮気しないわ、安心して!」
「お前は魔界から出てくるな」

私の事なんて見向きしない様子を見る限り、本当にユベールの事が好きなんだろう。
最初に見たのが女の姿だったけど、今は男の姿。
それも中性的で美形、背が高いから並んでいても見劣りしない。
……そんな趣味はないけど、これはこれで有りなんじゃないだろうか。

変態女はユベールとの距離をどんどん縮めて、肩に抱き着くように腕を絡ませた。

「離せ」

苛立ったようにユベールが言葉を発した瞬間。

「……ッ!」

変態女が声を上げる間もないくらい、素早い動きでユベールはその目の前の首を片手で絞めた。
声が出ないと言う事は、強く圧迫しないとそこまでならない。
ユベールが躊躇なく、首を絞めた事がよくわかる。

「今すぐ魔界に行くか、ここで俺に殺されるか。今なら選ばせてやる」

他人事ながら、ユベールにあれだけ喉を圧迫されていれば、喋ろうと思っても喋れないと思う。
口がパクパクと辛うじて動いているから、私は近づいて聞き耳をたてた。

「望み通り殺してやる」

何も言っていないような気がしたけど……。
でも審判が下った割に、変態女は嫌そうな顔はしていなくて。

「え、本当に殺すの?」
「だったらどうした」

ユベールは手に力を入れたのか、変態女の手がダランと落ちた。

「ね、私の目の前で殺さないで!怖いじゃない!」
「……なら中に入ってろ。香夜がいる」
「わかったよ」

どうする事も出来なくて、私は逃げるように社長室へと入った。




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あきゅろす。
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