空想庭園
1
赤い長い髪をたなびかせながら、黒いパンツスーツの美人さんが私をジッと見ている。
目が合って逸らせずにいると、美人さんは私に近づいてきた。
「……あなた、呪われてるわ」
「間に合ってます」
「え、あ、ちょっと待ちなさい!」
何なんだろ……。
サフィニアさんといい、この人といい。
お祈りや呪いとか、流行ってるのかな?
さすがの私だって、いい加減学習したもの。
もうこの手の厄介ごとには巻き込まれないんだから!
巻き込まれた暁には、アニスに徹底的に怒られて苛められる。もう私は今までの私じゃない!
素知らぬふりをして颯爽と通り過ぎる。
「いやいや、本当にあなた、悪魔に呪われてるでしょ?」
通り過ぎようとしたのに、この人……どうして悪魔だなんて……。
もしかして、この人本物?
アニスに、私呪われてる?
颯爽と通り過ぎるつもりが、気になる言葉に思わず足を止めた。
「やっと話しを聞いてくれる気になったかしら?あぁ、良かったわ!あなた、稀に見る呪われ方をしているわ」
「どどどどういうことですか?」
呪われてるって自覚がたくさんある上に、しかも悪魔とか。
もし本当に呪われているのであれば、その呪いを解けば運気が上がるのかもしれない。
そしてこの人の、本当に嬉しそうな笑顔。
何を信用して何を信用しちゃダメなのか。
「あたしはリリーよ、よろしくね」
「私は宮田香夜です、こちらこそよろしくお願いします」
挨拶をする私に、リリーさんは満面の笑みで私をずっと見ている。
それも上から下から、舐めるように執拗に。
「あの……、何か?」
「あらぁ、ごめんなさいね。……あまりにも美味しそうだなぁって思ったら、ついつい見とれちゃった」
「急用が……」
やばいやばいやばいやばい。これはやばい人だ!
今すぐにでもこの場から離れなければ!
頭の中の警報音がけたたましく鳴っている。
「あたしなら、その呪い。取ってあげる事が出来るけど……どうする?」
怪しむ私を試すかのような言い方で、リリーさんは笑う。
どうすると言われても……。
「あの……仮にですけど、その呪いが取れたら私はどうなりますか?」
「んー、そうねぇ。呪いの種類にもよるけど、変な所で転ばなくなるとか……ケガは少なくなるわよ。あなたの呪いをパッと見ただけじゃハッキリとは言えないけど……大小様々な不幸の回避が出来るかもね」
何だか微妙そうな感じだけど、少しでも不幸を回避できるのは魅惑的。
「うーん」と悩みながらリリーさんを見れば、胸の谷間を強調するように前かがみになって私の顔を覗き込んでいた。胸元ゆるゆるな服のせいで、溢れんばかりの肉体美。
おお、悩殺ポーズ。
私が男の人だったら嬉しいんだろうけど、私は女で同性で。
見せつけれるナイスバディに、己の貧相な体に少し涙目になる。
「大丈夫、そんなに時間はかからないわ」
よく聞くようなセリフに、リリーさんに促されるまま私はビルの隙間へと連れて行かれた。
「あなた、本当にたくさんの呪いを受けているわ。何がどうしたらそうなるのかしら」
「色々思い当たる事がありすぎて……。例えば、どんな呪いがありますか?」
「そうねぇ……、魚……これはゴラゴラね。あとは人形、……鏡?んー……カボチャ?カボチャ?何でカボチャ?」
歩く道中、どんどん人気のない場所へと連れて行かれるけど、特に不安はなくて。
ズバズバと呪いを当てていくリリーさんの話に聞き入っていた。
やっぱりあの魚は私を呪っていたんだ。随分前の事なのに、それでも呪いの効果は残っていたなんて。
……それにカボチャって、もしかしてハロウィンのカボチャ……?何であんなのにまで呪いが……。
軽く泣きそうになっていると、リリーさんの足が止まった。
「さて、その呪いをいただきましょうかしら」
振り返り、リリーさんは私の腕を掴んで壁に押し当てた。
「いたっ……」
背が高いせいか、女の人の人のわりに力が強く感じた。
痛みで涙がジワリと滲む。目の前ではそんなのお構いなしとばかりに、私を探るような目で見つめられる。
「すぐに済むから動かないでね。暴れたりしたら、その分時間がかかっちゃうんだから」
「へ?ええええっ!?……んんッ」
リリーさんの顔が近づいて来たかと思えば、寄せられた唇。
……私、何で女の人とキスしてるのよー!
「や、ちょっと、リリーさん、私、女です。やめてくだ」
「知ってるわよそれくらい」
リリーさん、女の人がお好みなんですか!?
腕は押さえつけられているから、逃げるには顔を逸らすしかなくて。
「んもう、動かないでよ。早く終わる事出来ないわよ?」
「でもでもでも、私は女で、リリーさんは女の人が好きかもしれませんが、私はそう言う趣味はなくて。でも別に悪いって言う意味でもなくて」
焦れば焦るほど、何を言っていいのかわからなくて。
ただ困ったように笑うリリーさんに見下ろされていた。
「あなた、あたしのこの姿が気に入らないのかしら?」
「いや、あの、そう言うわけじゃ。でも、あの、とりあえずこの手を離してもらいたいです」
「いやよぉ、あなた逃げるでしょ?こんなたっぷりと呪いを持った娘、滅多に居ないんだもの」
本当はあんまり言いたくないけど。
「私、女の人には興味がないんです。ごめんなさいリリーさん」
差別っぽくなりそうで、嫌だったけど。
リリーさんを傷つける事は不本意なのに、傷つけでもしたらどうしようと恐る恐る窺えば変わらない笑顔がそこにあった。
「あなたはあたしのこの姿が嫌い?」
「き……嫌いと言うより、同性と……その、そう言う事は出来ないと言うか……」
しどろもどろに答えれば、リリーさんは一言。
「わかったわ」
そう言ってまた私にキスをしてきた。
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