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空想庭園




「……香夜ちゃん」
「……そんな呆れた顔で、呆れた声を出さないでください。言いたい事はわかります」

社長室に入ると、ユベールさんにはしかめた顔をされ、アニスには前述の通りで。

そしてそんな雰囲気に似つかわしくない声を上げるのが。

「やっだぁ!ユベールじゃなぁい!お・ひ・さ」

リリーさんは黄色い声を出し、ユベールさんに引っ付いている。
ユベールさんは背が高いけど、それに見劣りしないリリーさんのスタイルの良さ。
身長差も余りなくて、だからなのか凄く恰好の良い二人だ。

「あの……リリーさんはユベールさんとお知り合いですか?」
「そおよー!あたしの大好きな人なの、うふふ!」

この部屋に……いや、このビルに入ってから妙にテンションが上がっている。

「香夜ちゃん、ちょっと」

アニスに呼ばれ、黄色い声を避けて側に行けば。

「……リリー、どこで拾ってきたの?ペットはロビンがいるから、もう何も飼えないよ?拾って来た所に戻してこないと駄目だよ?」」
「あの……」

普通に迷惑そうにするアニスに、突っ込みどころ満載で。何から返事をして良いのか、戸惑ってしまう。

「あのですね、リリーさんが言うには私は沢山の呪いを持っているらしいんです。しかも思い当たる呪いばかりを言い当てるんですよ。そしてその呪いを取ってくれると言われてですね、……あの……」

私がたどたどしく話ていると、アニスの表情が徐々に曇ってくる。
私の言い方が悪かったのか、何か気に入らない事を言ってしまったのか。

「香夜ちゃん、もしかしてリリーに何かされた?」
「えッ……」

ジッと見つめる金色の瞳。
何もかも見透かすような視線に、私はつい逸らしてしまった。
でもそれが悪かった。

「どうして目を逸らすの?香夜ちゃん、僕の目を見てごらん?ほら、どうしたの?」

静かに、そして確実に追い詰めようとするアニスに、私は後ずさりしていた。
でもすぐに背中に壁はやってくる。

助けを求めようとユベールさんを見れば、ユベールさんはユベールさんで大変そうだった。
追いはぎのようにリリーさんに服を脱がされかけていがて、本気で嫌がっていてあからさまな嫌悪の顔でいる。

「随分余裕があるねぇ。余所見している暇、あるのかな?」

私も随分ピンチです!

「ねぇ、リリーに何されたの?」

目の前の悪魔は私が正直に言えば許してくれるのだろうか?

「言います、から。あの、離れて……」
「だーめ」

背中には壁があって、アニスの顔が近づく。

「言う、……言います、から」

こんな他の人がいる所で、頬に唇を寄せてくる。
このままいったらキス……されちゃうんじゃ……。
そんな一抹の不安から咄嗟に。

「キス……、され」
「やっぱり……。リリー?」

言い切らない内に、アニスは私からリリーさんへと視線を移していた。振り返るように見ていたから、どんな顔をしていたかはわからないけど。
視線の先のリリーさんからは黄色い声がなくなってしまい、代わりに強張った表情になってユベールさんを盾にするように隠れていた。

「……ご、ごめんなさいいいい!まさか王子の育てていた呪いだなんて知らなくて。でも食べたのは、ほーんの少し、本当にすこーしで、まだまだ呪いは残ってるから大丈夫よ!こんなご馳走は見た事がなくて、本当にごめんなさい」
「少しだから良いとか、残っているから良いって問題じゃないんだよ、リリー。僕の物に手を出したって時点で、大問題なんだ」
「だから本当にごめんなさい!……じゃ、じゃあわかったわ!食べた呪い、少しでも返すからそれで許して!?ね、それなら良いでしょ!?」

ユベールさんの後ろに隠れていたのに、そこから勢いよく飛び出し、許しを請うように私達の下に来た。
そして私の顔を両手で挟みこんだと思うと、いきなり顔を近づけてきた。

「ひ、えええええっ!」
「だから……、僕の物に手を出す時点で大問題だと言ったでしょ」

唇が重なりそうになる前にアニスはリリーさんの頭を鷲掴み、その動きはどうにか止まった。

「お、王子……、あた、ま……、わ、……れ、……る……!」

絞り出すように声を掠れさせるリリーさんの勝気で綺麗だった顔が、どんどんと土気色になっている。
やばいと思った私は、リリーさんから離そうとアニスに抱き着くようにして飛びついた。

「リリーさん死んじゃう!アニス!」

飛びついてもビクともしない身体だけど、どうしたら止めてもらえるかわからなくて。
ただ力を込めて、必死に願った。




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