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空想庭園

もう何度寝だろう、寝ては起きての繰り返し。
しっかりとした睡眠をロクに取っていないせいか、いつまでも身体が休まらない。

待ってろと言われて素直に待っているけど、いつになったら来るんだろう。
時計を見ればもうお昼を過ぎている。

朝よりはよっぽど楽になったから、やっぱり一人で帰ろう。
電車であろうがタクシーであろうが、お金がないには変わりないから、やっぱりユベールに借りてこなきゃ……。

「確か……第三会議室って言ってたな」

第三会議室は10人以下対応の小さい会議室だ。
社長室と同じ階にあるから来客があればよく使われていた部屋で、会議室と言うよりちょっとした応接室だ。

社長室を出て第三会議室に行く。
完全防音の会議室は外からでは何が起こっているのか、何を話しているのかわからない。
重い扉を薄く開けようとするが、鍵がかけられているようで動こうとしない。

ダメか……、やっぱり大人しく待っているしか出来ないのか……。
早く家で休みたいのに、また来た道を戻り社長室に足を向けると。

「月胡か……」

今開けようとした扉が開き、ユベールが顔を出した。
お、ラッキー。これで帰れる。そう思ってユベールに近寄ろうとすると、あのムカつく女も一緒に顔を出した。

「あら、あの無礼者ね。まだ居たのね」

蔑むような目線をくれながら、ユベールに絡みついている。
内心イラっとしたけど、用件だけ済ませてサッサと帰ろう。

「帰るからお金貸して。財布も何も持ってきてない」

よくよく考えれば部屋着のままで家を飛び出してきたから、電車じゃさすがに恥ずかしいな……。

「送ると言っている。大人しく」
「私が来てあげているのに、他の者……しかも人間を気にするなんて。どうしたのよユベール」

こっちを見ろと言わんばかりに、ユベールの顔に手を滑らせて女の方に向けた。

「今、俺が話しているのは月胡です。ロベリア、あなたではない」
「……何……?私を拒絶するつもり?」

女から離れようと身体を離そうとするユベールに、なぜかその女は私を睨みつけてきた。

凄まじい怒り。
魔界で初めて会った時とは比べ物にならないくらいの、明らかな殺意。

本当、何なんだよ一体。私はただ帰りたいだけなんだって。

「はい、ストーップ。お終い」

緊迫する空気を破ったのは変態緑の呑気な声。
それに合わせて女が後ろに引っ張られた。

「アニスお兄様!離して!私はユベールに」
「たまにはお兄ちゃんの言う事聞いても良いんじゃない?いつまでも我儘ばっかりだと、誰にも相手にされなくなっちゃうよ?」
「……アニスお兄様まで私に説教するの?」

怒りの矛先が私から変態緑へと移った。
今の内とばかりに、ユベールに手を差し出した。

「お金。こんな格好だし、タクシーで帰るから」
「……お前は……、俺の話を聞いてなかったのか?」

あれ?社長室での怒り、再燃してる?
一人で帰れるんだし、ユベールの面倒が減って良いじゃん。

「……じゃあいい。歩いて帰る」
「待て!」

待てと言われて待つわけもなく。
私を追いかけようとするユベールは、あの女に捕まっていた。

少しでも足止めをしてくれるのであれば、今はあの女に感謝だ。

巻き込まれるのは嫌だから、この場をさっさと離れたかった。
私はエレベーターに乗り、閉まるボタンを押した。

「……逃げられると思うなよ」

閉まりそうになったエレベーターのドアを押さえ、静かに怒るユベールが乗り込んできた。
そしてすぐに閉まるボタンを押して、その箱は重力に従うように下に降りて行った。





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あきゅろす。
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