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空想庭園

駄目と思った一瞬。
黒い鳥は何かに吹き飛ばされるように弾け飛んだ。

「アニスッ!?」

黒い鳥は絶命したのか、ぼとぼとと落ちてきて地面を黒一色にした。
そしてそれらは身動きもせず、ただの骸と化していた。

その黒い屍を踏みながら、アニスは私達に近寄って来た。

「僕がこんな子供騙し程度で殺せるとでも思ったの?随分見くびられたもんだねえ」

アニスはかすり傷一つも負ってなくて。
ただ今までにないくらい、怒ってるという感情が露わになっていた。

「香夜ちゃんは返してもらうよ」
「……悪魔と一緒になるとわかってて、そう易々と渡せません」
「サフィニア、自分でおこがましいと思わない?神でもないきみが審判を下そうとしている。まるで神になり変わりたいと言ってるように見えるよ」

サフィニアさんは私を抱く左腕に力を入れた。本当に渡すつもりはないらしい。

空いた右手で空中を掴むように動かせば、地に伏した鳥達は黒い煙となり、サフィニアさんの手の中に吸い込まれていった。

「……そんな黒い魔力を平気で使うようじゃ、神はサフィニアの事許さないよ。きみは堕天して魔界にまで落とされ、瘴気にどっぷりと浸かってしまったんだ」
「悪魔から人間を救ったとなれば、その功績を称えて天に戻れる日が来ます。……必ず!」

サフィニアさんの腕が私から離れる。
そしてサフィニアさんは両手を突き出し、大きく柏手を打った。
重なっていた掌が離れると、銀色に光り輝く弓と矢が浮き出ていた。

「私は瘴気に浸かってなど……。私は天に戻れます!」

銀色に光る弓を構え、一瞬にして放たれた矢は一直線にアニスへと牙を向いた。

「アニス、逃げてっ!」
「どうして僕が逃げなくちゃならないの?」

私に刃向うようなセリフを言うアニスは手を前に翳し、サフィニアさんから放たれた矢を掌で受け止めるように突き刺した。

「アニスッ!?」

逃げれば良いものを。何好き好んで怪我をするのよ!
アニスは刺された掌を何食わぬ顔で見て、そしてゆっくりと口の端を上げた。

「僕と一緒では、香夜ちゃんは幸せになれない?」

掌に刺さった矢に手をかける。
その矢を表情一つ変えずに抜きながら、ゆったりとした足取りで私達に一歩近づいた。

「神の使い如きが、香夜ちゃんを救う?サフィニアは神になり変わろうとしているだけだよ」

何でその話を知っているの?
その話をしていた時は、アニスはいなかったはず。
もしかして、サフィニアさんに呼ばれるもっと前からいたの?

「でも、無理だろうね。サフィニアの天使だった頃の力はだいぶ枯れてるみたいだし」

苦々しい顔でアニスを睨むサフィニアさん。
自分の力量を……知っていたのだろうか。アニスに反論をしない所を見ると、図星だったように感じた。

「やっぱりサフィニアは魔界に帰った方が良い。きみにぴったりの場所だと思うよ。居心地が良いって、自分でもわかるでしょ?」

嫌味っぽく笑うアニスに、サフィニアさんはもう一度銀色の矢を向けた。
悔しそうに、切なそうに。初めて会った時に見せた、あの表情と同じに。

「無駄な事は止めた方が良い。神なんて気まぐれな奴を崇拝した所で、結局頼れるのは自分だけ。一度見放した天の御使い如きに、神は何もしてくれない」
「止めてください!神を冒涜しないで……っ」
「今までのサフィニアの行いを善しとするなら、どうしてこんな時に神は助けの手を伸ばさないの?」
「……止めてくださいっ!」
「神はサフィニアを見放したんだ」

現実を突き付けられたのか、サフィニアさんはアニスに言い返す事はしなかった。
そして疲れたようにサフィニアさんが矢をゆっくりと下ろした。

「グノーシス!」

アニスが叫べば、地面の中からその姿を現した。一度だけ声は聞いた事のある、アニスの友達だと言ったグノーシスさん。

初めて見た時は蛇の姿だった。アニス曰く、それは仮の姿だと言っていたけど。
一度アニスに頭を垂れ、見せる姿は……。

「アニス様」

短い黒髪に、夏の暑さを一つも感じさせないような涼しげな顔。
でも声があの時と違う。あの汚く掠れた声じゃない。
それこそ真逆、透き通る冷淡な声。

アニスの周りにはどうしてこんなにも見た目が素敵な人が集まるんだろう。
類は友を呼ぶとは言うから、きっと性格はアニスと似たような人だとは思うけど。

見目の麗しい人は目の保養。不謹慎ながら、そんな事を思いグノーシスさんを眺めていた。

「魔界の深淵へ連れて行って。アニス・ソロモンズシールの名の元、二度と地上に出れないようにして」
「御意」

アニスの命令で瞬く間に地面に吸い込まれてゆく二人。
そんな中、アニスは私の元へとやって来た。

「神の言葉を私は……赦免すると、一言……それが聞きたかったのです。ただ……それだけが……」

アニスの背中越し、サフィニアさんは悲しそうな瞳を私に向けながら言葉を絞り出していた。そして暗く揺らいだ瞳を隠すように瞼がゆっくりと閉じていった。

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あきゅろす。
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