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空想庭園

漠然とした恐怖に包まれた。
今まで良い人だと思っていたサフィニアさんが、静かに豹変した事に頭がついていかない。

「悪魔と一緒になっても幸せなんて一片もありません。私が……真の幸せを差し上げます」

突然の恐怖にサフィニアさんから目を離さないまま、私は腰を恐る恐る上げた。

「サフィニアさん?……この間と言ってる事が違う」
「確かに違います……ね」
「どうして……?アニスと仲直りしてって言ってたのに……、どうしてそんな事を」
「最終的にはあなたの幸せは約束されていますから安心してください」

何の心配もいらないとばかりに、サフィニアさんは微笑みながら私が離れた分近づく。
どうしてそんな事を言うのかと、私の問いには答えてはくれないからサフィニアさんの思惑がまるでわからない。

ブランコの鎖から手を離そうと力の入る指を開こうとすると、サフィニアさんの手が私の手に重なって鎖からは手を離せなくなってしまった。

「サフィニアさん!?」
「少し、ここで待っててくださいね」

綺麗な微笑みを見せたサフィニアさんはブランコの鎖をもぎ取り、まるで飴細工のように私の手に巻きつけてきた。
驚きのあまり、その様子をただ眺めてるだけしか出来ずにいた私が気を取り直した頃には、幾重にも鎖が巻き付いていて錘のついた手枷のようになっていた。

「王子、隠れていないで出て来てください」

呆然とする私を背に、誰もいない方に向かってサフィニアさんは声を上げた。

え?王子って、アニスがいるの?
まさかと思いながら、私も辺りを見回したけれどそんな気配は何もない。

「気付いてたんだ」

少し離れた木の上から、その声の主は舞い降りるかのような優雅さで降りてきた。

……本当にいた。え、いつから!?いつからいたの!?

「香夜ちゃん、これでわかった?こんな事をしてるサフィニアでも、本当に良い奴だと思ってる?」

私達に近づきながら私を心配するでもなく、アニスは窘めてくる。
そのことに関しては私は何も言えず、鎖が重く巻きついた腕をどうにか持ち上げアニスの方に歩こうとした。

「ここで待っててくださいと言ったんですよ?わかりませんか?」

サフィニアさんにされるがままに、私の腕を強く引き寄せられた。
勢いよく引っ張られたものだから、体当たりするような恰好になる。けれどそんな事を物ともせず、サフィニアさんは私を抱き止めた。

「王子に少し用事がありますから、あなたは待っててください。用事が終われば、必然的にあなたは幸せになれますからね」

勝手な事を言ってる……、私の幸せを勝手に決めつけないで!
サフィニアさんどうしたって言うの?あれほど私の幸せを考えてくれていたのは、嘘だったの……?

「さて、王子。あなたは我が神を侮辱しました。その罪を償っていただきます」
「侮辱?したつもりはないけどなあ」

サフィニアさんを挑発するように、アニスは呆れたように笑う。
それでもサフィニアさんはその挑発に乗る事はなくて、見た目は至って冷静なままだ。

「……あなたに身に覚えがなくとも、私は忘れません。あなたを消し、悪魔に魅了された人間を救ったとなれば神はお喜びになります」
「僕を消す?……面白いね。やれるものならやってみれば良いよ」
「ありがとうございます。……では、遠慮なく」

ここに来て、サフィニアさんは好戦的な目を見せた。
今までのは偽りだったと言わんばかりに不敵に笑った。

「ここは人間界。悪魔が往来を闊歩してては、人間に歪みが生じましょう」

靴底で強く地面を踏む。
サフィニアさんのそれが合図のように、地面からは無数の黒い鳥が一斉に現れた。

「肉の一片も残さないように」

空が一面黒く染まるくらい、黒い羽根を舞い散らせながら黒い鳥は辺りを覆った。

「ヒッ!」

あまりの光景に私は身を竦めた。
サフィニアさんに腰を抱かれているから思うように身体を縮める事は出来ないけど、怖くてそうせずにはいられない。

アニスはと言えば、ただ急に現れた黒い鳥を眺めているだけで何の対策もしていない。
何呑気に構えてるのよ!早く、早くどうにかしなきゃ!

「……鳥葬とでもしましょうか」

空を渦巻いていた鳥は狙いをアニスに定め、一気に降下してきた。
止めてもらいたくてサフィニアさんに声をかけようと見れば、歪んだ顔で笑う横顔が目に入った。

「……アニスッ!」

危ないっ、逃げて!

アニスに向かった鳥は不気味な鳴き声と共に、その姿を覆いつくした。

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あきゅろす。
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