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空想庭園




「さっきの事で香夜ちゃんは元気がなかったの?」

簡単手抜きメニューのオムライスを食べながら、アニスは私に話しかけてきた。
グッと喉が詰まりそうになり、私は目の前にあった水を勢いよく飲んだ。

もう終わった事だと、もう触れないでもらいたかったのに。
触れられれば、どうせ簡単には終わらせないだろうし、根掘り葉掘り聞かれるんだろうし。

それどころか、どこか気恥ずかしくてろくに話が出来ないのに。

「ねえ、そうなの?」
「……色々考えてたら、ちょっと疲れたんです。ただそれだけです」
「夫婦で隠し事は駄目だよ?ああ、そうだ。僕も聞きたい事があったんだ」

オムライスを一口大きく頬張り、美味しそうに咀嚼する。
私はと言えばオムライスを掬おうとする手が止まり、何を聞かれるんだろうと冷や汗を流して目の前のオムライスを凝視していた。

「昨日、どうしてアデルバードのお店に行ってたの?」

私の動きは完全に停止した。
触れられたくない話の一つが、いきなり飛び出てきた。

さっきまで私の不安だった事は全て解消されたから、それで良かったのに。
アニスが聞きたい事は私の行動理由で、きっとそれに付随して私の気持ちも暴露しなければならない事態にきっと陥るわけで。
それだけは嫌だ。恥ずかしいし、認めたくないし!

絶対に、絶対にどうにか誤魔化さなくては……。

「ちょっと、飲みに行きたくなって」

可愛らしく首を傾げながら答える。
歳的には痛い子に見えなくもないけど、今のこの正念場を乗り切るには恥なんて掻き捨ててやるんだからっ。

「ちょっと飲みに行く割には、随分と泥酔してたみたいだよ?」
「え、って言うか、どうして知ってるんですか?私がアデルさんのお店に行った事」

そう言えば、どうしてアニスはそんな事知っているの?
私は酔っ払いながらも一人で帰って来たんだとばかり思ってたのに。

「だってアデルバードが連絡くれたんだもん。香夜ちゃんが大トラになってるって」

ひいいいいっ!
アデルさん!あなただけは私の味方だと思っていたのに!酷い裏切りだ!

心の中で悪態をついたものの、アデルさんにしてみればいい迷惑である。
お店の開いていない時間に突然行って、好意でお酒を飲ませてくれた良い人なのに、勝手に裏切り者扱いをされているんだもの。

自分の思った事に対して突っ込みを入れつつ、私は顔色を青褪めさせた。

「大変だったんだから、家まで連れて来るの」
「……ごめんなさい」
「悪いって思うんだったら、どうして飲みに行ったりなんかしたの?しかもあんなに酔っ払うほどに」

……言えない。言いたくない。

「ねえ、どうして?」

だって、言ったら。きっとアニスは勘違いしちゃう。
別にアニスの事なんて好きじゃないもの。私をからかってばかりのアニスなんて。

「香夜ちゃん、言って?」

言いたくないと態度で示してしまったせいなのか、言葉は優しいのに声が怖い!まるで脅迫だ。
ついでに目の前のアニスから笑顔が消えた!

「僕に迷惑をかけたんだもの。説明くらいしてもらわないと、僕は納得出来ないよ?ちなみに嘘は通用しないから」

脅すような言葉を並べながら、アニスはオムライスを完食させた。
一方の私は蛇に睨まれた蛙の如く、身動きすらとれないで手つかずのオムライスと睨めっこをしていた。

「これからお風呂に行ってくるけど、それまでには食べ終わっててね。話はそれからにしよっか」

アニスがお風呂に入ってる間に腹を括れと言ってるんですね。

この時間をもらえた事が吉と出るか凶と出るか。

「……はい」

スプーンで悪戯に突いていたオムライスを一匙口に運び、私は頷いた。

「じゃあ、行って来るね」

ゆっくりとオムライスを食べながら、アニスの背中を見送った。

一度は自分の気持ちに気付いたのだけど、それを素直に認めたくない自分がいる。
どうにかそれから逸れて話を上手く進めたいけど、どうしたら良いのかわからない。

かと言ってアニスに嘘は通用しないだろうし、返ってアニスを怒らせてしまうような気がする。

「はあ……」

せっかく作ったオムライスの味がよくわからない。
こんなご飯は初めてだから、無駄に満腹感を満たす感覚に気分が悪くなる。

食欲がないと、あらかじめ小さく作って良かった。
どうにか食べ終え、食器を片づけた。

さっさと部屋に逃げ込みたかったけど、そんな事をしても何にもならないのを覚り、大人しくリビングでアニスが戻ってくるのを待った。

考えた所で何も思いつかず。
ただサフィニアさんの言葉を思い出した。

私を受け止めるだけの度量……。
勘違いをしていたのもあるけどアニスはちゃんと話を聞いてくれたし、あの不安な一連の出来事を払拭してくれた。

素直に、か。

私が気持ちを素直に言えば、このモヤモヤとした頭と心はスッキリするのだろうか。

サフィニアさんに押してもらった背中、今は少し尻込みしてしまうけど。
自分の気持ちを言うのは、やっぱり恥ずかしいし。

回想に浸っていると、アニスが脱衣所を出た音が聞こえた。







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あきゅろす。
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