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空想庭園



何だか最近、アニスの思惑通りに事が運ばれているような気がする。
私が苦し紛れに言った、指輪やデートの件を着実にこなしている。無責任にもあんな事を言ってしまって、軽く後悔。律儀にきっちりと実行しているんだもの。私の言った事が解消されたら、アニスは一体何を言い出すのか不安が募る。

洗い終えた食器を拭いていると、アニスが一人で喋りながらリビングに入って来た。
こっちはやっと仕事が終わりそうだと言うのに、随分と呑気なものだ。

「……そう。一緒に行くんだ。あの空気は毒なのに、連れて行っても大丈夫なの?慣らししてないでしょ?……え、そうなの?凄いね。天性なのかなあ。あはは、大丈夫なら良いじゃん。まあ、頑張って」

楽しそうに通話を切り、アニスは携帯を閉じてテーブルに置いた。

お風呂上りのアニスは暑そうにしながらキッチンカウンターの前に来た。何か飲み物でも欲しいのかと身構えていたけど、何も言わずに私の仕事を眺めていただけだった。
私も仕事が終わったらお風呂に入って、ゆっくりと休もう。そう思って、最後の一枚を食器棚に片づけた。

「香夜ちゃん、これからお風呂?」
「仕事も終わったんで、これから入ってきます。何か用事ですか?」
「別に用事って程じゃないんだけど、今夜は流星群が見れるって話だから、これから星を見に行こうと思って」

星を見るだなんて、アニスにしては随分ロマンチストな事を言うと心で感嘆した。

「何だか失礼な事を考えてるみたいだけど、香夜ちゃんも見に行かない?」
「行きます、流星群見てみたいです」

カウンターの向こうから笑顔で問うアニスに、私も笑顔で応えた。その際、私の心を読み取った事に関しては知らないふりで。

流星群なんて今まで何度かお目にかかるチャンスはあったけど、何かとタイミングを逃していた。
だから今夜はそのチャンスが巡ってきたわけで、初めての流星群に思いを馳せた。

「じゃあ、お風呂行ってきます!待っててくださいね!」

急いで入浴準備をし、お風呂に行った。
いつもよりも早めに身体や髪を洗い、早々にお風呂を切り上げる。
洗い上がりの髪をタオルドライだけで後ろで簡単にまとめ、脱衣室を出た。

リビングに行けば、珍しくアニスが飲み物やお菓子などを用意をしていて、私を待っていたようだった。

「意外に早かったね香夜ちゃん」
「急いで来ました。行きましょう!」

初めての天体ショーに、私は二階に向かうアニスの後をついて行った。

アニスと私の部屋を繋ぐベランダへは、アニスの部屋を通って行った。
昼間の暑さが少しは残っているものの、汗を流した後の肌には外の空気が涼しく感じる。

いつもは閑散としたベランダに、なぜか椅子とテーブルが用意されていた。
不思議に思っていれば、答えは意外な所から出てきた。

「香夜ちゃんがお風呂に入ってる間に準備したんだ」
「……ありがとう、ございます」

思わぬアニスの気遣いに、私はお礼を口にした。
どうしたのか、いつもはこんな気遣いした事がないのに。アニスの優しさに面食らう。

でも素直に喜んで、甘えておこう。
こんな事、そう滅多にある事ではないのだから。

二つのリクライニングチェアを挟み、小さなテーブルが置いてある。そこに飲み物とお菓子が乗ったお盆を置き、アニスは椅子に身体を凭れるように腰を下ろした。

「今日は雲が一つもないし、新月だから星が良く見えるね」

そう言われて夜の空を見上げれば、アニスの言った通り星が綺麗に瞬いていた。
静かな夜に誘われるように私も椅子に腰を下ろし、ゆっくりと背中を預けた。

最初こそ、流れ星が珍しかった私は、一つ流れてはきゃあきゃあと声を上げて、まるで子供のようにはしゃいでしまった。
でもそれは最初だけで、たくさん流れる星を静かに眺めていた。
それよりも、私より絶対にはしゃぐと思っていたアニスが一切はしゃがず、穏やかに星空を眺めていただけだった。

「ねえ、香夜ちゃん」
「何ですか?」

おもむろに声をかけられ横を見れば、アニスは私の方なんて向いてはいなくて、満点の星空を見たまま呟くように私を呼んでいた。

「この世界に来て、本当に良かったって思ってるんだ」
「……どうしてですか?」
「魔界はどうしたってしがらみが多すぎるし、退屈な事が多かったから」

しがらみに関しては、私も素直に頷ける。
アニスのお兄さんであるフェンネルさんの、あまりにも酷い敵対心と執着心に、私も巻き込まれるくらいなんだもの。いくら自分自身に直接的な被害がなくても、自分に関わる何かが傷つけられれば嫌な思いもするだろう。
ただ、退屈だなんて言うアニスの何が退屈でないのかは、私にもよくわからない。

フェンネルさんに連れられて魔界に行ったらしいけど、意識が朦朧としていた私は記憶がかなり曖昧だ。
魔界とはそれほど退屈な世界なのだろうか。……妄想の中の魔界はそんな感じはしないんだけどな。

勝手な事を考えてはいたものの、暗がりに見えるアニスの顔は至極真面目な表情に見えた。

「それにね、香夜ちゃんに会えた事が本当に嬉しいんだ。香夜ちゃんに会うために、僕はこの地を選んだのかもしれないって思うくらい、運命を感じるよ」

まっ、またそんな恥ずかしい事をサラッと言いのける!




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あきゅろす。
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