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空想庭園



脚立に身体を絡めさせ、情事後の気怠さに身を任せていた。なのに……。

「ほら、見てごらん。香夜ちゃんの感じた痕」

アニスは私の目の前に自分の手を翳した。
欲望の象徴とでも言えるような愛液をアニスは私に見せつけるように口元に持っていき自らの舌で舐め取っていた。
疲れた身体でも、恥ずかしさは一切疲れていないらしく、瞬く間に熱くなる顔。その顔を背けたい衝動に駆られ、私は目を瞑ってアニスに後ろ頭を向けた。

その瞬間、私の身体は浮遊感に襲われた。
浮遊感の正体はアニスが私を抱き上げたからで、私は驚きのあまり言葉をなくした。

「下半身丸出しも嫌でしょ?僕が運びながら履かせてあげるから大人しくしててね」
「服ぐらい私が自分で着ますから、今すぐに下ろしてくださいっ」
「そのまま動かないでね。じゃないと叩き落とすよ?」

落ちるんじゃなくて、叩き落とすって言う事は意図的に私を床に思い切り落とすって事ですよね!?
呆気にとられながらも、私はアニスに言われた通り無駄に暴れる事をせずに、二階に上がりながら私の下半身に器用に服を着せてくれた。……本当、万能ですね。

呆れとも感心ともとれる思いを持ちながらアニスの部屋に入ると私の身体は解放され、アニスはそのままロビンの元へと行った。

「ちょっと出てってくれる?」

不服そうに唸りながらもロビンは足音を立てずに部屋から出て行く。それを見送る事なく、アニスはパソコンの前の椅子に腰を下ろした。

「今日は香夜ちゃんの誕生日だよね」
「……よく知ってますね」
「今の時代、ネットを使えば何でもわかるよ」

個人情報保護法はどこ?
突然言われて驚きはしたものの、さらっと言われたセリフに現実味がなくて、失笑めいた乾いた声が漏れる。

「いくらなんでも私の個人情報なんてネットに晒されてるわけないですよ。有名人ならともかく」

アニスは笑顔で私を手招きする。どこか確信めいた笑顔に私から失笑の余裕すら消え失せる。
ただただうさん臭さを嗅ぎ取り、無意識に後退りをしていた。

「証拠を見せてあげるから逃げないの」
「……証拠?」

うさん臭さいっぱい怪しさ満点のアニスに警戒しながらも、好奇心をくすぐられた私はゆっくりと近付いた。

アニスはたくさんあるパソコンの中から開かれている一台のノートパソコンのマウスを操作した。軽快な指の動きは鮮やかで、アニスのタイピングの素早さに驚いた。
タッチタイピングなんて言うレベルを超えている。もはや無意識下の中の意識で、ほぼ反射に近いんじゃないだろうか。キーボードに指が置かれたら勝手に動き出すような機械みたいだ。

「プロフ?」

画面が変わり出てきたページは、作った覚えのない私のプロフィール。
顔写真に黒い目線が入っているけど、知ってる人が見たらわかるレベル。しかしこの黒い目線は容疑者のようにしか見えない……。しかもこんな写真、私知らないし。

アニスがマウスでページをスクロールする。次々に現れる私の個人情報に絶句。
誕生日が晒されているよりなにより、趣味はぬいぐるみと喋る事、仕事は奴隷とか……休日は無しになってるとか!スリーサイズまでっ!

「だ、誰がこんな事!?」

そう叫んだと同時にアニスは満面の笑みで私を見た。
一瞬でわかった。犯人は……!

「僕が作ったの。香夜ちゃんの情報を少しずつ集めてここまで出来たの」
「まるでストーカーじゃないですか!」
「ひどいなあ、人聞きの悪い事言わないでよ。僕なりの愛だよ、愛」
「私の個人情報……っ!嗚呼、もう、誰か変な人に悪用されたらどうするんですか!」
「大丈夫、このページに踏み込んだら最後、使ってるパソコンのデータを破壊するウィルス仕掛けてるから。ちなみに僕のパソコンにはアンチウィルスを入れてあるから心配ないよ」

血の気が失せるとはこの事だ。とりあえずアニスのパソコンの心配はしていないのだから、そんなつけたしは要らない!
私はすぐさまアニスの掴むマウスを取り、一心不乱に管理画面へ行こうとした。

「さ、削除しましょう、削除。こんなページは削除しましょう。下手したら私が警察に捕まっちゃう……!どこですか、管理画面はっ」
「大丈夫大丈夫」

全然大丈夫じゃない気がする……!

「僕がそんなヘマすると思う?」

……思わない。アニスは自分で罠を仕掛けたら、その相乗効果を狙って、更に罠を仕掛けて逃げ場をなくすような性格だもの。袋小路に追い詰めてじわじわと追いかけるとか、そんな意地の悪い性格だもの。
でも、でも!

「ネットを使えばわかるって言われても、アニスが私の個人情報をネット上にばらしているんじゃないですか!しかもウィルスとか、ありえません!削除です削除!」
「どうしてもー?」
「どうしてもです!」
「なら香夜ちゃんから僕にキスして?」

その言葉に後退りをしようとすると、椅子に座るアニスは私の腕をガッシリと掴んできた。
捕まれた腕から視線をアニスに向ければ、なぜか真剣な顔をしている。

……滅多に見せない顔を見せられると、私は途端に弱くなる。
悪巧みするような顔ばかり見ていたせいなのか、こういった顔は苦手だ。私の言いたい事も言えなくなって私を消極的にさせてしまう。

意を決し、アニスに一歩近づく。
アニスの顔が見れなくて、私は視線を逸らしたまま唇を強く噛んだ。

「目、閉じてください」
「……良いよ」

スッと閉じられた瞼に、睫毛が綺麗に並んでいる。男の人じゃないみたいなきめ細かな肌に、薄らと色づいた頬。
黙ってさえいれば美形な類に入るだろうアニス。でも黙っている事なんてないアニスは私にしてみればただの悪魔でしかない。

アニスの肩に手を置き、今までと違う身長差に戸惑いを覚えつつ少し腰を落として唇を近づけた。

軽く触れるキスをし、私はすぐに離れた。

「……しましたよ」
「これだけ?」

目を開けたアニスは不満そうにしていて、いまだ私の腕を離してくれない。

「約束は約束です。早くページを削除してください!」

自分からキスするなんて今までした事がないから恥ずかしくて仕方ないのに。

「香夜ちゃん、キスはね……」

こうするんだよ、と。続けられた言葉が途切れると、アニスに腕を強く引き寄せられた。
包み込むように抱き締められ、身動きが取れないと思っていると唇が寄せられた。
食むように下唇を咥えられると、すぐさま舌が侵入してきた。驚いた私は簡単に受け入れてしまい、また頭の中をドロドロに蕩かされた。






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