「抵抗も出来ないくらい、気持ち良かったのですか?可愛いですね美咲は」
「……はぁ……あぁ、この香りは……何?頭の中……痺れちゃう」
「この香りは特別でしてね、これに酔える方は私と運命を共に出来る方、と言う意味があるのですよ」
美咲を抱き寄せ耳元で囁くセンリはゆったりとした口調で言い、時折美咲の耳朶を悪戯に食んだ。
「やっ、だめ……っ!やめ……て、おかしくなっちゃう、誰か……助け……」
助けを呼ぶ台詞は弱々しく、気付く人などいないくらいだろう。
静かなままの街に、美咲の息遣いばかりがやけに耳につく。ましてこの世界には美咲とセンリ以外存在しないのではないのかと、錯覚してしまうほどの静寂。
「どうしたの?」
不意に第三者の声が現れ、荒い息を整える。
センリもその声に僅かに反応を見せ、柳眉を上げた。
「だ……れ……?」
力の入らない身体を捩り、美咲は声のする方へ顔を向けた。
鼻と目を覆った乳白色の仮面をつけた黒髪の男性が少し離れた場所に立って、遠巻きにこちらを眺めている。
黒いスラックスに白いシャツ、黒いベストを着た青年のようだ。
仮面の青年からは、はっきりとした表情を知る事は出来ないが、今の現状から逃げられるならばと美咲は助けを求めた。
「センリの香り……溺れそうで怖い、……たすけ……て」
「センリに溺れたくないの?」
「こわ、……いの」
意識が朦朧とする中、必死に言葉を紡ぐ。
快楽に溺れまいとする紅潮した美咲を、ただジッと見るセンリの表情は恍惚としている。
「じゃあ俺が助けてあげる、ただしこの借りは大きいよ?」
「か……り?」
「マスカーレイドの手を借りては、美咲はもっと壊れる事になりますよ」
微笑みながら意味深な発言をぶつけるセンリは、美咲の首筋に顔を埋め舌を這わせる。
「ひっ、ぁあん、やぁ……ん」
震えながら快感の涙を零し、頭の中が真っ白になった美咲は、最早言葉は出なく喘ぐ声ばかりしか出せないでいた。