道化の国
来訪者1
甘い一時をたっぷりと堪能したセンリは美咲を腕に抱き締めたまま安堵し、緩やかな眠りについていた。
美咲もセンリ同様に、温かな体温に包まり安らぎの中まどろんでいた。
しかしそれを邪魔するかのように、たくさんの人の声がセンリ達の睡眠の邪魔をした。
怒声ともつかない、悲鳴ともつかない、様々な人の声。
女の声もあれば、よく聞き知った男の声もある。
徐々に近付いてくる声にセンリは眉間にシワを寄せ、身体をゆっくりと起こした。
無論、突然の事で美咲も目覚めてしまい、眠い目を擦りながらセンリに身体を預けた。
「なぁに・・?センリ・・。」
「あの方々はそんなに私を怒らせたいのでしょうか・・。」
既にスラックスを履いていたセンリはベッドの縁に腰をかけ、裸の上半身に白いシャツを羽織っていると遠慮がちに扉を叩く音が聞こえた。
「センリ〜助けてくれよー・・。」
「私は知らないわよ!?センリ達絶対最中なんだから、今度こそマスカーレイド・・、殺されてもおかしくないわよ?」
「でもさ〜。」
「私がマスカーレイドを気に入ったんですもの、センリに助けを求めるのは筋違いじゃなくて?」
開かない扉をジッと見ていたセンリは、扉の向こうから聞こえてくる声に眉を吊り上げている。
「マスカーレイド・・?マリカに・・・アルマ?・・・え、やだ・・、どうしよう。」
寝ぼけていた美咲も完全に目が覚め、一糸纏わぬ姿に恥じると慌ててベッドに身を隠した。
それに気付いたセンリは美咲の服を取り出し、美咲の頭元に服を置いた。
「こちらに置いておきますね、美咲が服を着るまであの扉は開けませんからゆっくり着替えてください。」
「ありがと・・。」
いそいそと服を着始めた美咲に微笑みかけたと思うと、踵を返したセンリの顔からは笑みが一切消え失せた。
変わりに現れたのは、怒りの色。
「何をしに来たのですか?」
冷たく響く声は扉の向こうにいるマスカーレイド達に届き、それは怒気を含んでいると容易に理解できた。
「ほらね、やっぱり怒ってるじゃない。マスカーレイド、良いから帰るわよ!」
「でも〜、俺も困るよー。」
「何も困る事はございませんわ。私と幸せに暮らせば良いだけの事ですから。」
「絶対に嫌だー。」
センリは腕を組んだまま扉に背をもたれさせ、美咲の着替える様子を眺めながら背中の向こうから聞こえる声に耳を傾けた。
「何となくわかりました。マスカーレイド、ちょうど良いじゃないですか、アルマと一緒に暮らせば貴方の素行も少しは良くなるのではないですか?今まで無節操に生活してきたのです。諦めてアルマと一緒に・・。」
「そんなのは嫌だ!それが嫌だから、センリに助けてもらおうと思って来たんじゃないかー。もっと遊びたいの、俺は!」
マスカーレイドの台詞を聞き流していると美咲の着替えが終り、センリのもとへと駆け寄ってきた。
「後ろ髪が乱れていますよ。」
「え、本当?やだなぁ・・。」
少し気恥ずかしそうに手櫛で髪を整えようとすると、センリの手が伸びて美咲の髪を梳かし始める。
美咲は気持ち良さそうに瞳を閉じ、センリの指の動きを感じていた。
「はい、良いですよ。綺麗になりました。」
「ありがとう。」
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