道化の国
来訪者2
二人が微笑み合っていると、扉の向こうからマスカーレイドの弱々しい叫びが聞こえてきた。
「センリー、聞いてるのー?」
マスカーレイドの声のする扉を忌々しげに睨み、センリは大きくため息をついた。
「マスカーレイドはアルマに気に入られちゃったの?」
着替えながらも耳はマスカーレイドの声をしっかりと拾い、美咲も大体の話は理解していた。
少しだけわくわくとした声の美咲は、満面の笑みでセンリに問いかけた。
「そのようですね、こちらとしては何の不都合もないので、アルマに協力してあげたいくらいなのですが。」
「そんな事は絶対に止めてくれ!とりあえずリビングにいるから、早く来て!」
遠ざかる足音と声を聞き、センリは美咲に目配せをした。
「どうします?」
「どうしますって・・、マスカーレイド困ってるみたいだし、助けてあげようよ。」
「美咲がそう言うなら、そうしましょうか。」
美咲は扉に手をかけ大きく開き、リビングに向かって小走りで行った。
センリはその後を追う様に、ため息をつきながら独り言を漏らした。
「私としては、このままマスカーレイドとくっついてもらえた方が、煩わしくなくて良いのですが。」
美咲には聞こえないよう美咲の気持ちとは相反する事を呟き、美咲の意見に反対出来ないセンリはぼやく事しか出来ないでいた。
センリがリビングに入るとソファの端に座るマスカーレイドにベッタリと張り付いたアルマがいて、先ほどまでされていた自分と重なって見えた。
そう思えば、マスカーレイドは少し可哀想だと感じ、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべたマリカと目が合った。
マスカーレイドはアルマとは反対方向を向いていて疲れた様子でいる。
そして美咲はちょこまかと動き、お茶の準備をしていてセンリはキッチンへと赴き、茶器を運んでいると美咲がティーポットを持って後ろからついて来た。
それぞれにお茶を並べ一息つくと、マスカーレイが口を開く。
「ともかく、これ、どうにかして。」
マスカーレイドはアルマを指差し、面倒臭そうに言い捨てる。
最早名前さえ疎ましいのか、頭を痛そうに抱え込んだ。
「なぜアルマが嫌なのですか?」
「なぜって・・、俺の趣味じゃない。許容範囲外だからね、どうやったって無理なものは無理。」
至極簡単な事だとマスカーレイドは答え、ソファの縁に肘をつき頬杖をついた。
「貴方に許容範囲なんて言葉があったとは、知りませんでした。」
センリは優雅な動作でティーカップを口元に運び静かに飲んでいると、マスカーレイドは顔を手で覆い泣き真似をした。
「・・・アルマ、マスカーレイドはこう言ってるし・・、諦めてはもらえないかな?」
「嫌ですわ、ただでさえもセンリに蔑ろにされて、これでマスカーレイドに相手にされなかったら、私のプライドは傷だらけで再起不能になってしまいますわ!」
聞く耳をもたないアルマに困った美咲は小さくため息を漏らし、視線を落とした。
アルマの台詞に目を細め、センリは自分の中にあるサディスティックな心がくすぐられた。
それは自分がアルマにされた事の仕返しし足りなかった怒りも含ませ、頭を回転させた。
それに、マスカーレイドに眠りを邪魔された事も合わせて。
何か思いついたセンリはほくそ笑む口元に手を当て、それを美咲に見えないように隠しソファに背を預けた。
「マスカーレイドは、とても高尚な趣味の持ち主でしてね。・・・所謂男娼です、わかりますか?男性が相手ではないと、起つものも起たないのです。」
その言葉に、一同の視線を集めるセンリは表情を全く変えないで話を続けた。
「ですから、貴女は性転換でもしてしまえばマスカーレイドとの仲に進展は望めますが、・・・女性では・・・。私も何度狙われた事か・・・。」
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