道化の国
水色の瞳1
笑顔だった美咲の顔が急に曇り、一点を見つめる。
建物の隙間に塞がるように倒れる一人の少年があった。
美咲はセンリにクリスタルを預け、倒れる少年に急いで駆け寄った。
「大丈夫?どうしたの?」
美咲は少年を優しく揺さぶり、意識があるのかどうか確認する。
しかし反応はなく、美咲は近寄るセンリに視線を向けた。
「どうしたのかな・・・、この人、意識がないみたい。」
「・・・放って行きますよ。この国では、どんな人間が罠を仕掛けているかわかりません。」
そこにはいつもの柔和な表情ではないセンリが、心ない言葉を美咲に投げかけた。
「そんな・・。」
言葉を詰まらせる美咲が少年の顔を覗き込めば、まだ幼さが少し残る十六〜十七歳に見えた。
色素が抜けたような柔らかそうな茶色の髪が余計にそう見せ、顔色が悪く色白の肌が蒼褪めていた。
「そんな事ないよ、こんな具合悪そうにしているのに・・・。放っておくことなんて出来ない。」
悲しそうな顔をする美咲が引く様子を見せず、少年の背中に手を置いたままセンリに懇願する。
「仕方ありませんね・・・、でも、私のフィールドには連れて行きませんよ、良いですか?」
「うん。」
センリは諦め口調で美咲に言うと、美咲にクリスタルを渡し少年を抱き上げ歩き始めた。
後を追う美咲は、心配そうに少年の様子を窺う。
「近くに私のいきつけにしていたBARがあります、そこで休ませます。」
「うん、ごめんねセンリ。」
「いえ、美咲が悪いわけではありません。私も少し意地悪な物言いをしましたね、すみませんでした。」
美咲に対して負い目を感じてしまったセンリは、申し訳なさそうに美咲を見た。
悲しい顔をさせるつもりなどなかった・・、ただ、余計な荷物を抱えて美咲がまた妙な事に巻き込まれるのではないかという懸念があったから。
だからこそ、つい、冷たい言い方をしてしまった。
言ってしまった言葉は撤回する事など出来ず、センリは己の狭い心にため息をついた。
美咲の関心は常に自分でいたい、いつか美咲の自由すら奪ってしまいそうなほどの気持ちが膨れ上がる。
「此処です。さ、美咲、入ってください。」
「うん・・。」
中に入ればテーブルには蝋燭、カウンターにはランプが灯された小さなBAR。
薄暗い店内の隅にセンリは足を進め、少し古ぼけた二人掛けのソファに少年を寝かせた。
「水でも持ってきましょうか?」
「そうだね・・、・・あれ、気がついた?」
ソファの横に立っていた美咲は少年の側に座り込み、顔を覗き込んだ。
瞼が開き薄暗い室内に視線を向け、辺りの様子を窺う。
透き通った水色の瞳はあちこち眺めていたと思うと、動いていた視線は美咲を捉えて止まった。
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