道化の国
贈り物
センリと美咲が、久しぶりに二人のゆっくりとした時間を楽しんでいた時。
石畳に響く足音が重なり、静かな街並みに美咲の小さな笑い声が聞こえる。
「美咲に見せたい物があります。」
「え、何?」
「着いてからのお楽しみです。」
意味ありげに笑うセンリは、首を傾げる美咲を抱き寄せる。
小さな店につくとセンリは美咲に入るように促し、後から続いて行った。
店内の壁際にはランプが一定の間隔で配置され、その側には人の頭ほどのクリスタルの球体がランプの光を反射させて淡く輝く。
「此処は何?」
「美咲、あちらにあるのが、見せたいものです。」
美咲の質問をセンリは含んだ笑みで流し、店の隅を指差した。
センリの指先を辿りついた先は、クリスタルの球体の中に桃色や黄色が鮮やかな花が咲き誇る。
丸みを帯びた花弁に鋭角な緑が映え、クリスタルに包まれたブーケはさながら宝石に見える。
「え・・・、これ・・・すごく綺麗・・、どうしたのセンリ?」
「プレゼントです。倭の国で花が好きだと言った時に、頼んでおいたのです。少々時間はかかりましたが。」
淡い光に照らされたクリスタルに魅了されてしまった美咲に、センリは満足そうに微笑みをかける。
「喜んでもらえて、私も嬉しいです。」
美咲は宝物を抱くように、両手でソッと持ち上げた。
「これ、私が持って行って良い?」
「重くありませんか?」
二人は話しながら店を後にし、美咲はうっとりとした表情で囁いた。
「平気。・・・すごく素敵、ずっと見ていたいの。」
「前を見て歩かないと、転びますよ?」
センリが言うと同時に美咲は何もないところで躓いてしまい、咄嗟にセンリの手が延び美咲は転ばずに済んだ。
勿論美咲は自分の身よりもクリスタルを大事に持っていたため、落とす事はなく。
「言った側からこれですものね、・・本当に目が離せませんね美咲は。」
苦笑いを浮かべるセンリに優しく咎められ、美咲は肩を強く引き寄せられた。
「フィールドに戻ればいくらでも見ていられますよ、ですから今は前を見てくださいね。」
「う・・ん、ごめんね。」
誤魔化すように笑う美咲は、センリに抱かれるがまま前を向いて歩き始めた。
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