道化の国 白露の気持ち 俺が悪いんだ……、よな。 俺が目を離している間に、どんな輩が現れるかわからない。 自分の身ぐらい自分で守れるよう、それだけのつもりだったのだが……。花月には、適度な運動くらいにしか考えていない。 飲み込みは早かったが、おっちょこちょいな所があるから結局は目を離せない。 自分の腕を過信するばかりに、無茶もする。 だから他所の国に遊びに行くたび、あんなに脱走を繰り返してしまう始末。 死んだ父上が殿の護衛をしていたと言う縁で、花月が産まれた時から一緒に育てられ妹のように思っていたが、日に日に美しく成長する様を見ると心の奥がギシギシと軋む。 もうすぐ、花月は誰かのモノになる。 ずっと花月の身を守ってきた俺から、誰か知らぬ男へとその役目を譲る日が近付く。 殿からいただいた縁談。 それが、俺からその役目を解放するという証。 花月の見合い相手を選んでいると、奥方様から聞いたときは、来るときが来た……、と思った。 そう、いつまでもこのままではいられない。 見合いの話があれば、花月はきっと俺に一番に愚痴を零すだろう。 しかし、それはまだない。 殿は花月に言っていないのだろう。 花月の性格だ。 言ったら半狂乱になってそれを阻止するだろうから、ギリギリまでは言わないおつもりなんだろうが……。 “このままずっと過ごすんだ、白露とずっと一緒にな” 花月の台詞が、何度も頭の中を木霊する。 そんな簡単に言うな。 そう出来たら一番良いと、俺だって思っている。 花月は俺を兄のように慕っているだけだろうし、それ以上の感情が花月にあるとは思えない。 俺だって……、妹のようにしか見ていなかったはずだったのに。 ―――否、そういった風に、見ようとしていた。 俺の縁談の期日が迫る現実と、花月の言葉が鍵となり、今まで封印していた気持ちが溢れる。 焦り、葛藤、不安、苛立ち。 まだ見ぬ男への、嫉妬。 それぞれの想いに気持ちが圧迫され、心が苦しい。 今となっては追憶の中の花月にまで、翻弄されてしまう。 もどかしい想いを、持て余してしまう。 一旦解放された慕情を、封印する術を俺は知らない。 しかし俺の気持ちを気付かれてしまえば、花月は戸惑うだろう。 俺はずっと花月を見守っていく。 子をもうけて、幸せな家庭を築く花月を遠目に。 今までと変わりなく、ずっと見守っていく。 ――それが俺には、一番相応しい。 言い聞かせる己が阿呆で、情けなくなる。 引っかかる気持ちが交錯する、こんなモヤモヤした気持ちのまま、縁談を受けても相手に失礼だ。 第一この縁談がまとまった所で、相手を愛せる自信が俺にはない。 ともかく俺の縁談だけでも、どうにか回避せねば。 しかし、一体どうすれば……。 生半可な事では、殿は納得してくれないだろう。 花月同様、実の子の接し方をしてくれていた殿には申し訳ないが、どうすれば……。 [*前へ][次へ#] [戻る] |