道化の国 冷たい視線 「白露、どうした?どこか具合でも悪いのか?顔色が悪いぞ」 「……何でもない」 いつの間にか冷や汗を額に浮かべ、白露の手足の指先が冷たくなっている。 「美咲が帰って来たら何をしたいか考えておけ。隙を見せたら、センリにまた取られるぞ」 「それは困る!折角招待したのに、意味がないではないか!白露がセンリの相手をしてくれていれば、わたくしと美咲でゆっくり出来るんだが」 意気揚々と握り拳を振り上げ息を巻き、花月は自分自身に気合を入れた。 「今日なら良いが、明日は無理だ」 花月は不思議な顔で、白露を見上げる。 「明日は仕事無いはずだ、一日中一緒に居られるのではないのか?」 「明日は……、来客がある。だから俺は一緒には居られない。だから城内に留まっていろ、センリ達にも言っておくから。……わかったな」 花月の方を一度として見ずに、白露は淡々と答えた。 「白露、様子が変だ。何かあったんだろう?」 「何もない。俺の事は気にしなくて良い」 その場を立ち去ろうとする白露の袂を掴み、足止めをした。 「さっきからわたくしを、ちゃんと見ていないではないか!」 「……これで良いのか?」 白露は冷たい視線を花月に向け、表情のない顔は何処か寂しげで。 着物を掴む手から力が抜け落ち、花月は腕をだらりと投げ出した。 「はく……ろ?」 「ちょっと一人にさせてくれ。すぐに変わりの護衛をよこすから、そこに居ろ」 白露は近くに居る門番に話をすると、すぐさま門番は走って代わりの護衛を呼んできた。 「良いか、ちゃんと言う事を聞いて大人しくしていろ」 そう言って、白露は髪を靡かせ藤の花を掻い潜っていなくなった。 いつもと違う白露に、花月は悲しくなる。 あんな冷たい瞳を向けられたのは初めてで。 消え行く白露の後姿を、ただ見ているしか出来ないでいた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |