道化の国
着物デート2
「マリカの言った通り、天が高い……。陽の光が眩しい」
雲一つ無い天空は、突き抜けるような蒼さでいる。
太陽は白く輝き、爽やかな風がそよそよと流れ、土や緑の匂いを肌で感じる。
「この国は自然豊でとても綺麗な国です。夜は明るい昼間の喧騒が嘘の様になりますよ」
「マリカもそんな様な事言ってたかも。話を聞いてるだけで、とても楽しみ……」
うっとりと思い描く情景に、想像を付け加え瞳を輝かせる。
「それは後のお楽しみですね。では、何処から見て回りましょうか」
「そうだね。此処は何のお店?小袋がたくさんある……」
濃紺の暖簾が下がる小さなお店の中を、美咲は興味深そうに覗き見た。
「これは匂い袋ですね、この国の住人の嗜みの一つです。どれでも好きな香りを選んでください」
「これ、香りが違うの?迷っちゃうな……」
美咲があれやこれやと悩んでいる様子を、センリは愛しげに眺めていた。
「大茴香……、これが良い。とても甘い香りね」
「じゃあ、それにしましょうか」
センリは店の主人に話しかけながら懐から花月からきた招待状を見せると、急に畏まったように腰を折り曲げた。
「じゃあ行きましょうか」
「お金は……」
「花月が支払ってくれますから、問題ありません」
「良いのかな……」
「良いのですよ。白露がその様に、と言っていましたから」
美咲は掌にある黒い縮緬の匂い袋に視線を落とし、眉をしかめるが、すぐに笑顔になった。
「何だか申し訳ないけど、すごく嬉しい。これ……大事にする」
「そう言ってもらえれば、白露も花月も喜びますよ」
掌に握られた匂い袋をセンリはソッと取り上げ、美咲の帯びに刺した。
「これは此処に忍ばせておくのですよ。……これで良いです」
「ありがとう」
匂い袋から解放された空いた手をセンリの手と重ね、明るい日差しのもと、二人は倭の国見物を楽しんでいた。
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