道化の国
藤の花咲き垂れる庭で
花月の住まう城に通されたセンリ達。
それぞれが別れてから一時の後、先に着替え終えたセンリ達は藤が咲き垂れる庭で待っていた。
「センリ……、どう?似合うかな……」
「……美咲」
美咲の声に気付いたセンリが振り向けば、緋色地に薄桜が映える満開の桜が花びらを散らす着物姿で立っていて、センリは言葉を失ってしまう。
藤の紫に浮かび上がる、その着物姿は艶やかでいて、可憐に見える。
呆然と立ち尽くしていたセンリは、フワリと優しい笑みをもって美咲に近寄り、遠慮がちに手を取った。
「とても、似合います。何でしょうね、大人っぽいと言うか……。妙にそそられますね」
“今すぐ、脱がしてしまいたいです”と、そっと耳元で囁き、悪戯な笑みを見せた。
美咲は顔を赤らめ狼狽し、俯きながら小さく呟いた。
「私よりも、センリの方が似合う……。この花に溶け込んで……、とっても色っぽい……」
淡藤色の着流しを身に纏うセンリは、そうですか?とはにかんで、自分の姿を見る。
「ね、美咲、センリの事惚れ直した?」
薄萌黄の着流しに、羽織をはおったマスカーレイドがひょっこりと顔を出してきた。
「うん……、すごく素敵。マスカーレイドもとっても似合ってる」
美咲はマスカーレイドを一瞥しただけで、すぐに視線をセンリに向けうっとりとしている。
「ついでに褒めてくれてありがとう、美咲」
口元をへの字にしたマスカーレイドはため息を零すと、途端にガヤガヤと周りが騒がしくなる。
濃紅地に黒が、袖と裾に切り替えられ、裾に黒鳶の花菱草が揺れるたモダンな趣の着物姿で、マリカは腰に手を当て立っていた。
その側にある藤棚の陰に花月は隠れて、遠目に様子を窺う。
漆黒地に、黄赤や韓紅の牡丹が咲き乱れた、絢爛豪華な装いがチラリと見える。
「どう私の着物姿、似合うでしょ?」
その場でクルリと回り、袂(たもと)を翻し笑顔を振りまく。
「マリカ……、意外に似合いますね」
「意外ってどう言う意味かしら?美咲の事は素直に賞賛するくせに、私にはそれだけ?つまらないわねぇ」
口ではそう言いながらも着物を着れた事がよほど嬉しいのか、マリカは楽しそうにしている。
「花月も出て来いよ、そんな所に隠れてないで」
マスカーレイドは気配を隠し、隠れる花月を覗き込み、ニヤリと笑う。
「い、いつの間にっ、変態は近寄るんじゃない!白露ー!助けろ!!」
「変態は認めるけどさ。でも、相変わらず酷いよね」
マスカーレイドは肩を竦め、花月は叫び声を上げ蹲っている。
不意に後ろに気配を感じ、マスカーレイドが振り向こうとすると、銀色輝く細身の刃が肩に乗せられる。
「マスカーレイド、頼むよ。花月を放っておいてくれないか?騒ぎが大きくなれば、城の奴等がくるし、そうなればお前は捕まる。道化の国に居る時とは、勝手が違う。だから、頼む」
「だからって、もっと穏便に話をしてくれよ。何だよ、この脅しは。頼み事をしてるように見えないんだけど」
マスカーレイドは両手を挙げ、降参のポーズを取って白露の言う事に素直に従った。
「花月は、一々こんな事で馬鹿騒ぎをするんじゃない。お前はマスカーレイドを、倭の国に置いておくつもりか?拘留されたら、暫く此処に滞在する事になるんだ。良いのか?」
花月は髪を振り乱し、ブンブンと頭を横に振った。
「なら、少しは大人しくしていろ。わかったな」
「わかった……」
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