「キャー!痛いー!白露のアホー!」 白露は一つ二つと数を数えながら、小気味の良い音をたてながら花月の尻を叩き始めた。 それを見ていた美咲は突然の話の流れについてゆけず、ただポカンと様子を見ていた。 「おい、そこの女!ボケッと見てないで……、痛ーい!!助けろ!ッイヤー!」 「“おい”や“女”じゃないだろ。“そこの貴女”くらい言えないのか。馬鹿すぎる女は、可愛くない。それにもう少し立場の自覚をした方が良い」 「そんな事……、いたーい!ごめんなさい、ごめんなさーい、直すから、わかったー。白露ー!」 叫ぶ花月をたじたじしながら眺めていた美咲に、センリは肩を抱く。 「この方々が倭の国の花月と白露です。マスカーレイドの言ってた事、当たっているでしょう?」 「んと、じゃじゃ馬と、腰巾着?」 美咲の言葉に反応した本人達は、騒がしく動いていた身体を止めて美咲を睨んだ。 「誰が腰巾着だって?」 白露に睨まれた美咲は小さく悲鳴を上げ、サッとセンリの後ろに隠れる。 センリは笑みを漏らし、美咲を庇う様に腕を回した。 「白露、あまり睨まないでください。私の美咲が怯えています。貴方を腰巾着と言ったのはマスカーレイドですよ。美咲の言葉ではありません」 「わたくしはじゃじゃ馬じゃない!……センリその娘は誰?私のって?」 白露の手から何とか逃げた花月は痛む臀部を擦りながらヨロヨロと立ち、不思議そうに美咲を見やる。 センリは美咲を見つめ、それは誇らしげに嬉しそうに花月達に紹介した。 「私の希望の光、美咲です」 「……初めまして、さっきは失礼な事言ってしまってごめんなさい」 センリの影から出てきた美咲は、小さく頭を下げて白露達に非礼を詫びた。 白露は鋭い眼光のまま美咲を見つめ、近寄ってくる。 「こちらこそ怖がらせて悪かった。俺は白露、倭の国の住人だ。それでこっちが……、花月、お前も自己紹介しろ。礼儀だろう」 腕を捕まれ、無理矢理にセンリ達の前に立たされた花月は頬を膨らませている。不満で一杯だと、表情が物語っている。 「花月」 少しの後、花月は白露の言葉に渋々応えた。 乱れた着物を直し、スッと背筋を伸ばし美咲の前に立つ。 「鬼のような白露に毎日苛められてる、可哀想な花月です。よろしくお願い致します」 微笑む花月につられ、美咲も笑顔をみせた。 しかし、ある程度予想はしていたが、ろくな挨拶をしない花月に対して白露はしかめ面でいる。 「まったく……、花月は行儀作法の見習い中でな。俺が面倒を見てるんだが……こんな時ばかり綺麗な言葉を使って妙な言い回しをする」 「白露こそ普段の言葉遣いどうにかしたら?わたくしに教えられるような立場じゃないぞ」 花月はあからさまに視線を白露から外し、ブツブツと悪態をついている。 「花月に怒る権利はない。その通りだろ?」 「父上のお気に入りだからって、その上から目線は気に入らない」 花月を見下ろす白露は、まだ花月を許す気配はなく。 それを見ていたセンリは、呆れたようにため息を漏らして白露に告げる。 「痴話喧嘩も良いですが、今回は私達を巻き込むような事をしないでくださいね」 「それは俺に言う事じゃない。この、はねっかえりに言ってくれ」 「貴方は何のためのお目付けなんですか」 白露は至極真面目な顔で、呆れ顔のセンリに言い放つ。 しかしそれを恨みがましい表情の花月は、怒りを露にし二人を睨んだ。 「わたくしを無視して、勝手な話をするな!お前達なんか嫌いだ!!白露のバーカ、センリの冷血ー!」 |