花月は捨て台詞を吐き、一目散に何処かへ走り去った。
しかしすぐに白露に捕まり、またじたばたと抵抗をする。
「はーなーせー!」
「捨て台詞とは良い度胸だな、花月」
白露のニヤリと弧を描く口元に、花月は冷や汗が背中を伝う。
「……捨て台詞などではない。置き土産だ」
「どちらにしても、俺に喧嘩を売っているようだな」
白露に凄まれ、花月は勢いづいていた気持ちが急激に冷やされた。
大人しくなった花月を逃がさぬように腕を捕まえた。
「しかし、この国で初めて見たな、希望の光……か。良かったなセンリ」
「えぇ、ありがとうございます」
少し和らいだ表情の白露に、センリはニコリと微笑んで美咲を抱き寄せた。
「センリ達はこれから何処か行くのか?」
「サーカス開催の際には美咲をフィールドで留守番をさせなければなりませんから、そのお詫びにデートをしていたんですけどね」
「そうか、邪魔して悪かったな」
微笑むセンリは瞳を伏せ、小さくかぶりを振る。
「いいえ。貴方もサーカスを見に来たんでしょう?」
「そうなんだが……、花月が大人しく見ていてくれれば良いのだが」
花月以外の三人の瞳が、花月に集まる。
逃げるのを諦めた花月は、大人しく白露の腕に捕まったまま気の抜けたような顔をしている。
「美咲も一緒にサーカスを見に行くなら、大人しくする」
何か企むように笑う花月に、美咲の表情が一気に華やぐ。
しかし……。
「花月、今度は何を考えている」
「美咲を巻き込まないでください」
二人は同時に難色を見せるが、そんなのはお構いなしに花月は唯一色好い反応を見せた美咲に視線を向ける。
「サーカス、美咲も行きたいだろ?白露、良いだろう?」
「行きたい!……センリ、一緒に行っちゃ駄目?」
美咲に見つめられ、否定などは出来るわけもなく。センリは嫌々ながらも頷く事しか出来きなかった。まして心とは真逆の対応で、自ら苦渋を舐める結果にいささか胸が苦しくなった。
しかしそんなセンリを知らない美咲は、肯定の返事を貰えたと喜び花月と手を取り合いはしゃいでいる。
「白露、美咲をお願いします」
「面倒な事になった……」
空気を重くし諦めムードの二人と、楽しみに期待を寄せる二人の温度差は計り知れない。