独り、二人
言葉の夢
『ごめんね。でも、その方が翠の為になるはずだから』
行かないで。
そう言って、手を伸ばすことができたなら何か違っていたんだろうか?
でもいつだって、僕の手は伸ばされることはなく、その人は去っていく。
そうして真っ暗な中に僕は一人取り残される。
行かないで。
何度も飲み込んだ言葉。
連れて行って。
一度も言えなかった言葉。
置いて行かないで。
僕の中に沈んでしまった言葉。
眠るたびに夢を見る。
夢だってわかる、そんな夢を。何度も何度も繰り返し。
あの日のあの人の言葉だけが何度も繰り返される。
もう、顔を覚えていないのに。
あの瞬間が、あの言葉だけが繰り返される。
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