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倉庫
刺さる体温(P4:主足)
女性らしい柔らかく滑らかな身体からは程遠い、骨ばって硬く薄い彼の身体を抱く。
痛い重い苦しい、と文句は途絶えない癖に抵抗らしい抵抗が見られないのは己の力をわきまえているのか、それとも幾らかの信頼は勝ち取っているのか。
おそらく両方だな、と両腕に力を込めると彼の眉間のシワが深くなった、気がした。

「・・・ねぇ、重いんだけど」

うんざり、という気持ちを隠しもせず彼がぼやいた。

「でしょうね」

構わず彼の項に顔を押し付ける。

「ぅ、わ!」

心底嫌そうな声と同時に彼が身動いだ。
残念ながらそれで解放してやる程自分は優しくも弱くもない。

「足立さん、冷たい」

彼の抵抗など意に介さず言い放ってやれば、わざとらしい溜息の後に彼は抵抗を止めた。
相変わらず妙な所で聡い人だ、と半分呆れ、半分感心する。

「君が熱いんじゃないの?」

そして、皮肉めいた口調は忘れない。
あくまで自分が基準、という事か。彼らしい。

「違いますよ」

俺は応えた。
確かに自分の体温は特別低くはないが特別高くもないはずだ。
彼が冷たいのだ。
そしてそれは、雪や川の清流のように澄んだ冷たさではなかった。
もっと汚ならしい、誰も寄せ付けないような、まとわりつく、例えるなら、そう。

「死体、みたいだ」
「いきなり何?失礼だな・・・」

意味が解らないだろう呟きに、困惑と苛立ちの混じった返事が返される。
じりじりと内に篭った怒りが露になってきているのを感じて、思わず頬が弛んだ。

「なんでもありません」
「・・・あっそ」

まあ別に関係ありませんけど、そう言いたげな態度がその実彼の奇妙な防衛本能である事を俺は知っている。
彼のこんな姿を知っているのは俺だけであるという優越感と、何度繰り返しても俺と彼の距離が縮まらない事に対する僅かばかりの疲労感と苛立ち。
それらがどろりどろりと入り混じった俺の胸中は酷く醜い、と我ながら溜息を吐きそうになった。
勿論そんな気配はおくびにも出さないけれど。

「足立さん、冷たい」

溜息の代わりにそう吐き出せばさっき言ったじゃない、と力ない声が返事をした。
いい加減面倒になってきたのだろう。
そんな彼の言葉を無視して、再び項に顔を埋めた。
これだけ長い間抱きあっているのに彼の体温は死体のままだ。
それが無償に悲しくて哀しくて、俺は無意識に喉の奥でくつくつと笑ったのだった。


刺さる体温
(互いの熱さえ交わらない)



あきゅろす。
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