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伏せられたままの目(APH:英日)
アメリカに連れて来られた日本は、酷く衰弱した顔をしていた。
元から華奢な体付きではあったが、以前はこれ程はやつれていなかったと思う。

「…お久しぶりです」

そう言って微笑んだ目の下には、隈が出来ていた。

「…ああ」

俺はぎこちない笑みを返したと、思う。

敗戦国。

今やそんな言われ方をするようになってしまった日本に、勝者であるはずの俺は何と言って良いか分からなかった。

「どうしました?」

日本がこちらを見る。
その目は、俺の胸中を見透かしているんじゃないか、と背筋が寒くなった。

「い、いや」

俺は焦りながら、適当な言葉を探す。
すまなかった、と謝るのも、お前と交す言葉など無い、と罵るのも、容易い事ではあるが、それらはどちらもお門違いであるような気がした。
結局、俺は黙ったまま俯く、という最低な手段を取る事になった。
これは逃げである、と分かっていても顔を向けられない。
唇を噛み締めると、至って落ち着いた、穏やかな日本の声が聞こえた。

「…イギリスさん」

いつもの物腰の柔らかい、優しげな声。
だけど俺は、背中からはい上がる悪寒に震えていた。

「顔を上げて下さい」

また同じ声で、日本が言う。
強く命令された時のように、体に緊張が走った。
恐る恐る顔を上げれば、柔らかな笑顔。
つられて俺も引きつった笑みを浮かべたように、思う。
日本がその笑顔のまま口を開いた。

「私と向き合う覚悟がないなら、あんな事しなければ良かったのに」

言葉と表情が一致しない。
俺は耳を疑った。
いや、違う。
疑うべきは目だったのだ。
日本の笑顔は、友好の表れでは決してなかった。
黒めがちの瞳は、奥底で憎悪が揺らめいている。
優しげに聞こえる声は、その実怨嗟の言葉を紡ぎ出していた。
違う、あれはアメリカが勝手にやった事だ。
そんな事は、結局アメリカを止めもしなかった俺が言える訳が無い。
また俺は黙って俯くしかなかった。
それが一番卑怯で醜い行為だと知っていて、俺にはそれしか出来なかった。

「…もう、良いですよ」

貴方には失望しました。
そう暗に言われているようで、今更ながら自分の醜悪さを知った思いだった。

「貴方のそういう所が、一番人を傷つけるんです」

幾分強くなった声に、は、と顔を上げると、日本はもう俺の方を見ていなかった。

違う。
俺はお前を傷付けまいとして。

言い訳ならたくさんあった。
けれど、それらは全て声にならなかった。
さようなら、そう言われても身動きが出来ない。
俺はただずっと、去って行く日本の背中を見つめていた。

(君は昔からずっと変わらないね)
(アメリカが俺を嗤って言った)




あきゅろす。
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