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どちらかが死んだ場合その2(エアギア:左スピ)

目が覚めたときにはもう体に傷一つなかった。
あの時がまるで嘘みたいに。

「左君・・・」

声に出して思い出した。
左君はどこだろう。

「左君・・・?」

辺りを見回しても、僕一人しかいない。
ああ、きっと左君は大丈夫だったんだ。
そう思うと安心した。安心・・・したはずなのに。
どうして。
この気持ちは初めて感じるものなのかもしれない。

「一人って、こんなに淋しかったっけ・・・」

いつもは周りに人が居て当たり前だったから。

「左君・・・」

彼の名前をもう一度呼んでみた。
後悔をしていないなんて、そんなの嘘だ。
これから新しい子供達がA.Tを履くところも見たかったし、美容師の仕事だってある。
それでも、僕が一番心残りなのは左君のことだった。
こんな僕のことをずっと大切にしてくれた人。
お互い意地を張ってそんなこと決して言わなかったけど、僕は彼を何よりも大切に思ってた。
今までありがとうも、巻き込んじゃってごめんも、カズ君のことを頼むよも、・・・大好きだよも、僕はまだ何一つ彼に伝えていない。
こんなに早く別れが来るなんて。
そう思った瞬間、彼の顔が目に入った。

「カズ、君・・・?」
「喋んな!」

泣きそうな顔でそう言われる。
やっぱり君は誰よりも優しい子だったね。
それでもその言葉には、今は従えなかった。

「左、君は・・・?」
「眼鏡なら無事だから!だから・・・死ぬな!」

ごめん、その願いも今は聞けないんだ。

「左、君に・・・伝え、て欲し・・・」

言葉がうまく出ない。
それでも言わないと。

「・・・分かった。俺が伝えてやる!」

泣きながらカズ君が叫ぶ。
ごめんね。
君が気にすることは何一つないのに、僕は君の心に大きな傷を負わせてしまった。
それでも、最後に一言だけ。

「大、好き、だ、よ・・・」

最後の方はもう声になっていなかったかもしれない。

「!・・・うん、うん、分かった!」

それでもカズ君は目に涙を溜めながらしっかりと頷いてくれた。

「あ・・・が、と・・・」

もう何を言っているかすら分からない。

ねぇ、カズ君。
君がもし、遠い将来誰かに炎のレガリアを渡すことがあったら、その時に、僕の話もしてくれるかな。
先代炎の王は自分にとって必要な人だったと思ってくれるなら、それだけで僕が生きてきたことが無駄じゃないと、思えるから。
そう思った後、急に意識が遠くなった。

「!スピ・・・!」

遠くでカズ君が叫んでる気がしたけど、答える気力はなかった。
あのたった一人の場所に帰るのも、もう怖くはない。
自分の死をこんなにも悲しんでくれる人が居る。
それだけで今は充分すぎるほどだった。
最後に左君と一緒に向こうに行けないのは残念だけど、それは僕の我儘だから心にしまっておくことにする。
そんなことを考えながら、僕は僅かに残った意識を手放した。


「炎の王はさ。死んじまったけどあいつが残した炎は消えてないよ」

少年は何の表情も浮かべずに呟く。

「あいつ、最期に笑ったんだ・・・。お前のこと、大好きだって・・・」

最後は言葉にならなかった。
・・・彼は最期まで彼らしかった。
残された者のことを考え、この事態の結果が自分の命一つですむなら安いものだと思いながら死んでいったのだろう。
ふざけるのも大概にしろ、と思う。
誰もお前の自己犠牲など望んではいなかったのだ、と。
それでもその言葉をぶつけるべき相手は、今ここにいない。
復讐など、彼は求めない。
だから、きっと彼が望むであろう言葉を口に出してみた。

「私は生き残りますよ。あなたの分まで。それから・・・」

少し間を開けて続ける。

「私もあなたを愛していましたよ」

最期に伝えたかった言葉。寂しがりやの、彼の為に。
隣の少年が私を見上げる。

「さぁ、行きましょう」

微笑んで見せた。
彼が残した火種。
その炎は絶対に守り切る。
そう決意した私の横で、少年も立ち上がった。
私達は覚えておこう。
かつて誇り高い理想を持って戦った、一人のライダーがいたことを。
彼が残した火種は、今もなお生き続けていることを。
誰もが憧れる青空は、今日は一段と青く晴れ渡って美しかった。
彼も同じ空を見上げていることを祈りつつ、私達は彼のいるところに背を向けて歩きだした。


さようなら、それからお休みなさい。







マガジンで以下略
ちゃんと全パターン考えた私は気持ち悪い。



あきゅろす。
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